ビクセンED80Sf鏡筒の実力
ビクセンのED80Sf望遠鏡は、EDレンズを使いながらもコストパフォーマンスが高いモデルです。 上位モデルのビクセンED81S鏡筒に比べると、オプションや細部に違いが見られますが、この価格でEDレンズを使った8センチ鏡筒が手に入るのは魅力的です。今回はこの望遠鏡の写真性能について、 実写を交えて迫ってみました。
ウィリアムオプティクス製レデューサー
屈折望遠鏡で天体写真を撮るときには、像面をフラットにするフラットナーレンズ、もしくはレデューサーレンズを用いて撮影を行いたいところです。特にレデューサーレンズは、口径比(F値)を明るくするので、天体写真には有効な補正光学系です。
今回テストしたED80Sfは、価格が安く魅力的な存在ではありますが、ビクセン純正のレデューサーレンズが使えない点が問題でした。そこで、ウィリアムオプティクスから発売されている、汎用性のあるレデューサーレンズを撮影に用いました。このレデューサーユニットは、望遠鏡取り付け部分が2インチスリーブになっているので、ED80Sf鏡筒の接眼部にそのまま差し込むことができます。
このレデューサーレンズは、望遠鏡の焦点距離を約0.8倍にします。ED80Sfの焦点距離は600ミリでF7.5ですので、このレデューサーを用いると480mmF6となり、天体写真向きの性能になります。
※レビュー作成時、ビクセンED80Sf用レデューサーが未発売でした。
現在は専用設計の「レデューサーED80Sf」が発売されていますのでこちらをご利用ください。
ビクセンED80Sfの実写性能
このビクセンED80Sf望遠鏡を郊外に持ち出して、オリオン大星雲をデジタル一眼レフカメラで撮影してみました。撮影に使ったカメラは、ニコンD50のフィルター改造モデルです。フィルター改造モデルは赤い星雲の光が通りやすく、赤く輝く星雲撮影に適したカメラです。
下の画像がこのED80Sfで撮影したオリオン大星雲です。デジタルカメラの感度はISO800に設定し、露出時間は10分です。ホワイトバランスを合わせただけの生の撮影画像です。小さい画像なのでわかりづらいですが、星はシャープで色収差も目立たず、EDレンズの性能がよく発揮されています。
下に上の画像のオリオン大星雲部分をトリミングした画像を載せました。ED80Sfは口径8センチの望遠鏡ですが、デジタルの威力でオリオン大星雲の暗黒帯のディテールまでよく写っています。この画像を見ても、ED80Sfが色収差が少ない光学系であることがわかります。
ED80Sfの星像と周辺減光
実写画像を用いて、ED80Sfの実力をもう少し検証してみましょう。天体写真撮影で気になるのが、光学系の周辺減光と星像です。周辺減光が大きい光学系を用いると、撮影後の画像補正作業が大変になり、楽しいはずの作品作りが面倒になってしまいます。また、星像を後で補正することはほとんど不可能で、これは撮影に使った光学系の性能で決まってしまいます。この二点は、撮影用の望遠鏡を購入するときに、気をつけておきたいところです。
上に載せたオリオン大星雲画像の、中心部と四隅の画像を下に掲載しました。四隅と中央に載せた四角内の画像は、ピクセル等倍になっています。このピクセル等倍画像を見ると、中心部の星像はしっかり丸く写っているのがわかります。四隅の画像では、わずかに星が伸びているものの、目立つほとではありません。今回使ったAPS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラなら、十分な性能でしょう。
続いてビクセンED80Sfの周辺減光を見てみましょう。今回は、周辺減光を見るために、フラットフレーム画像を撮影してきました。下がそのフラット画像です。使用したカメラや光学系は上と同じです。
撮影したままのフラット画像ですと、ほとんど周辺減光がわかりませんでした。そこで、下の画像はレベル補正コマンドを使って、ヒストグラムを約3倍に圧縮して見やすく強調しています。ここまで強調すると、四隅が黒くなっていることわかります。しかし、この減光の度合いが大きいのは最周辺部だけで、その内側の減光はなだらかです。この減光の度合いは、他の高性能望遠鏡に比べて大きいものではなく、写真撮影に十分使えるものです。
なお、画像の中にポツポツと黒い影がありますが、これはデジカメの撮像素子上に載ったゴミが写ったものです。上の撮影画像と見比べてみると、同じ位置に黒い影が出ていることがわかります。
実際に使って気になった点
撮影画像を見てみると、ビクセンED80Sfは星雲写真撮影にも魅力的な存在であることがわかりました。ここでは、ED80Sfを写真撮影に実際に使ってみて、いくつか気になった点をお伝えいたします。
撮影していてまず気になったのは、ED80Sfの接眼部です。上位モデルのビクセンED81Sの接眼部は、昔ながらのラックピニオン式ですが、ED80Sfはクレイフォード式が使われています。このクレイフォード式は滑らかな動きが特徴ですが、重いカメラを取り付けるようには設計されていません。今回はボディが軽いニコンD50でしたから問題ありませんでしたが、ニコンD3などのヘビー級カメラを取り付けるときには、気をつけた方がよいでしょう。
次に気になった点は、鏡筒バンドです。これも上位機種のED81Sと比べると若干強度が低いタイプのようです。今回の撮影では問題が出ませんでしたが、長時間撮影をし続けるときには不安要素になります。他の鏡筒のものを流用できるなら、そちらを利用すれば、よりしっかりと架台に取り付けられるでしょう。鏡筒自体は径も大きく、しっかりした造りになっていますので安心感があります。
今回用いたウィリアムオプティクスのレデューサーレンズは、0.8倍のII型というモデル(※)です。2インチスリーブに差し込めるので汎用性が高いレデューサーです。ただレンズ最後部のレンズ径が小さいので、APS-Cサイズのデジカメ用と考えた方がよいでしょう。35ミリフルサイズデジカメに使用すると、周辺部がけられてしまう恐れがあります。
以上、いくつか気になった点を書きましたが、ED80Sfは基本的な光学性能が高い望遠鏡です。いつかはステップアップして、天体写真も撮ってみたいと考えているユーザーにお勧めの望遠鏡です。また、上記の問題がクリアできれば、より天体写真撮影に適した一本として生まれ変わります。今回のテスト撮影を経て、ビクセンED80Sfは、写真撮影にも使用できるハイコストパフォーマンスの望遠鏡であることがわかりました。
※レビュー作成時、ビクセンED80Sf用レデューサーが未発売でした。
現在は専用設計の「レデューサーED80Sf」が発売されていますのでこちらをご利用ください。