アイダスGNB フィルターの使用感

アイダスGNB フィルターの使用感

アイダス ネビュラブースターGNB(以下、「GNB フィルター」)は、新しいタイプのデュアルバンドフ ィルターです。GNBフィルターの大きな特色は、通常のデュアルバンドフィルターで透過する可視光域 の波長の光に加えて、近赤外光も透過する点です。今回は、このGNBフィルターを用いて都会で天体を 撮影し、フィルターの効果を確認してみました。


アイダス ネビュラーブースター GNB



GNB フィルターの特性

人間の目が感じることのできる光の波長は380nm~770nm程度で、可視光線と呼ばれています。一般的 に、天体撮影に使用されるフィルターは、この可視光線以外の波長の光をカットする設計になっていま すが、GNBフィルターは、780nm~900nmの波長の光(近赤外光)を透過する設計になっています。

可視光線の波長域に注目すると、GNBフィルターは、星雲が主に輝く波長(OIIIやHα)の光だけを透 す設計になっており、同社のデュアルバンドフィルターであるNB フィルターと同じ特性を持っていま す。つまり、GNB フィルターは、NB フィルターをベースに、近赤外域の光も透過するようにした新し いタイプのデュアルバンドフィルターと言えるでしょう。



近赤外光を通すメリット

天体撮影や電視観望にとって、都市部の光は、天体写真のクオリティを低下させる大きな要因です。昔 は、街灯に水銀灯が多く用いられていたので、水銀灯が発する特定の波長の光だけをカットすれば、光害 の影響を抑えることができました。しかし、現在は、可視光域全体にわたって発光するLEDが街灯に使 われるようになり、従来の光害カットフィルターでは、光害カットの効果を得られにくくなりました。

近赤外域の光に注目すると、銀河や恒星はこの波長域の光も発していますが、LED照明や蛍光灯は、こ の波長域の光はほとんど発していません。従って、近赤外域の光を透過するようにすれば、光害の影響は ほとんど受けずに銀河や恒星を撮影できることになります。 このように近赤外域の光を通すことで光害カットの効果を高めたのが、GNB フィルターです。GNB フ ィルターは、可視光域では光害に強いデュアルバンドフィルターの特性を持ち、連続光で輝く恒星や銀 河のために、光害の影響の極めて少ない近赤外域の光も利用できるように設計されています。



GNB フィルターに適したカメラ

GNB フィルターの性能を最大限に発揮するには、近赤外光の感度の高いセンサーを搭載したCMOS カ メラが必要です。ZWO社製カメラの中では、ASI664MCが近赤外域の受光感度(Relative Response) が比較的近赤外光の感度が高くなっています。

上は、ASI664MC カメラの特性グラフです。横軸は光の波長、縦軸は受光感度を表しており、受けた波 長の光に対して、カメラがどのぐらい反応するかを示しています。ASI664MC は近赤外域の830nm 付 近の光の受光感度が高いことがわかります。 ASI664MC の他に、新しく発売されたASI585MCPRO にも近赤外光の感度が比較的高いセンサーが使 われています。ASI585MCPRO は、センサーサイズが664MC より一回り大きく、冷却機構も付いてい るので、星雲や銀河を本格的に撮影したい方にお勧めのカメラです。



都会で系外銀河を撮影

GNB フィルターを使用して、春を代表する系外銀河、M51 子持ち銀河を撮影しました。使用した鏡筒 は、ビクセンVSD90SS 望遠鏡です。望遠鏡の接眼部に、GNB フィルターをねじ込んだASI664MC を 取り付けて撮影しました。

上は、露出時間300 秒で撮影した24 枚コマを、ステライメージ9 で重ね合わせて強調処理した画像で す。2等星がやっと見える都会の空での撮影ですが、伴銀河もしっかり写っており、銀河周囲に広がる淡 いハロも確認できます(周囲をトリミングしています)。 比較のために、天体撮影によく使用される、可視光だけを透過する光害カットフィルター、IDAS LPSD1 フィルターを使って、同じ機材で同じ対象を撮影したのが、下の写真です。

GNBフィルターと同じ露出時間では、画像が真っ白に飽和してしまったため、約半分の180秒で撮影し ました。ステライメージ9 で同程度のコントラストになるように画像処理しましたが、銀河の淡い部分 の描写はGNBフィルターを使った場合より劣っています。また、写りの悪い画像から強調したため、ノ イズ感も増し、色合いも濁ってしまいました。



星雲の撮影にも好印象

GNB フィルターは、Hα光とOIII 光を通すデュアルバンドフィルターのNB フィルターに、近赤外光 も透過するようにしたフィルターなので、星雲撮影用としても使用することができます。実際に、都会の 自宅で星雲を撮影してみました。

上は、GNB フィルターとASI664MC を使って撮影した、亜鈴状星雲の写真です。鏡筒は、FC-35 レデ ューサー0.66×を取り付けたタカハシFC-100DFを使用しました。 露出時間300秒で撮った画像を10枚重ね合わせて画像処理したものですが、亜鈴星雲の淡い広がりがよ く写っており、コントラストの高い画像を写し出すことができました。 星像が若干大きく感じられるのは、使用した望遠鏡の近赤外域の収差が表れた影響でしょう。同社の NBZIIフィルターに比べると、GNBフィルターの半値幅は少し広いものの、デュアルバンドフィルター としても使うことができる、汎用性の高いフィルターだと感じました。



望遠鏡とGNB フィルターの相性について

市販されている天体望遠鏡は、可視光線の波長の範囲で、色収差や球面収差が発生しないように設計さ れています。しかし、GNB フィルターは近赤外域の光も透過するため、天体望遠鏡の機種によっては、 焦点像が通常よりも甘くなる(ボケたように写る)場合があります。

上は、GNBフィルターを使用し、VSD90SSとFC-100DF(レデューサー使用)で撮影したM51の比較 写真です(1枚画像です)。VSD90SS に比べて、FC-100DF で撮影した方が、星像が大きく、全体的に ボンヤリとしていることがわかります。 可視光域では、両望遠鏡の差はほとんど感じられないので、近赤外域の収差補正の差が表れたのでしょ う。理想を言えば、近赤外域でも収差の少ない反射系の望遠鏡がGNBフィルターに適していると思いま す。



まとめ

都会の街灯がLEDに置き換わるにつれ、都市部の光害の影響はますます大きくなっています。そのよう な中、光害のある自宅でGNBフィルターを撮影に使用してみて、光害カットフィルターの新しい可能性 を感じることができました。 従来の可視光だけを透過する光害カットフィルターと比較すると、GNBフィルターは、可視光ではHα 光とOIII 光のみを通しつつ、近赤外域の光も利用するので、光害カット能力は非常に優秀です。実際、 両フィルターの撮影画像を比べてみると、背景の暗さが段違いでした。 また、NBZII 等のHα光とOIII 光だけを通すデュアルバンドフィルターと比べると、GNB フィルター では、星雲のコントラストは若干落ちるものの、連続光で輝く系外銀河などで自然な色合いを得ること ができます。近赤外域の光を使ってRGBカラーを得られるGNBフィルターの利点でしょう。 GNBフィルターは、近赤外域の光を通すため、光学系との相性の問題はあるものの、光害カットの効果 が高いだけではなく、デュアルバンドフィルターとしても使用することができ、汎用性の高いフィルタ ーだと感じました。天体撮影のフィルターワークを楽しんでいる方に、是非試していただきたいフィル ターの一つです。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

タカハシTPLアイピースのインプレッション

タカハシTPLアイピースのインプレッション

2023年7月、高橋製作所からTPLアイピースが発売開始されました。従来のAbbeアイピースの後継機として開発されたモデルで、見かけ視界約50度のスタンダードタイプです。


タカハシ TPLアイピース




アイピースとは

アイピースとは、天体望遠鏡の接眼部に取り付ける接眼レンズのことです。アイピースには焦点距離が定められており、天体望遠鏡の焦点距離をアイピースの焦点距離で割り算することによって、望遠鏡の倍率が定まります。例えば、口径10cmで焦点距離1000mmの望遠鏡に、焦点距離10mmのアイピースを用いると、100倍の倍率が得られます。

焦点距離が同じアイピースでも、内部に使われているレンズの種類や枚数は様々で、レンズ構成によって視界の広さや見え方が異なります。そのため、目的や好みに合わせて適したアイピースを選ぶことが大切です。

星空観望用なら、視界が広いアイピースが一度に星空を見渡しやすく適しています。眼鏡をかけている方には、アイレリーフが長いモデルが覗きやすくてお勧めです。一方、惑星や二重星の観望なら、中心像のシャープさが重要ですので、視野が50度ぐらいの標準タイプのアイピースが適しています。

今回ご紹介するTPLアイピースは、見かけ視野が48度で、標準タイプに分類されるアイピースです。もちろん、星雲星団の観望にも使用できないことはありませんが、惑星や月面クレーター、二重星の観望に適したアイピースと言えるでしょう。

なお、惑星用アイピースには、エルンスト・カール・アッベが発明したと言われる、オルソスコピックタイプ(オルソ)のアイピースが良く使用されています。現在は、オルソの中でも、アッベが提唱したレンズ構成のものをアッベタイプ、1群と2群に同じレンズ構成を用いたものをプローセルタイプと呼び分けることが多くなりました。


TPLアイピースの特徴

TPLアイピースは、プローセルタイプのアイピースです。光学系には2群4枚のレンズが用いられ、見かけ視界は48度に統一されています。2024年4月現在、焦点距離6mm、9mm、12.5mm、18mm、25mm、33mm、50mmの7種類がラインナップされています。

惑星観望用のアイピースとして、高橋製作所はレンズ4枚構成のAbbeシリーズを販売していました。Abbeシリーズは、従来のタカハシOrアイピースをリニューアルしたモデルで、一定の評価を得ていましたが、少し前に生産が終了し、後継機の登場が待ち望まれていたところです。

待望の後継機となったTPLアイピースは、中心部の色収差がAbbeシリーズの約半分、また、タカハシLEアイピースの約2/3とメーカーはアナウンスしています。上図は視野中心のスポットダイアグラムの比較画像ですが、確かにAbbeシリーズやLEアイピースに比べて色収差が少なく、星像がより中心部分に収束していることがわかります。


アイピースの外観

TPLアイピースは、タカハシロゴ入りのブルーの箱に入っています。箱は補正レンズなどと同様の箱で、アイピースを入れるプラスチックケースさえも付属していないシンプルなものですが、高橋製作所らしいと言えばらしい梱包です。

アイピースの外観は、TPLとブルーで印字されている以外は、ごく普通の国産アイピースと言う印象を持ちました。ただ持つと適度な重さが感じられ、特に高級感を感じるデザインではありませんが、基本に忠実に作られた製品であることが感じられます。

アイピースに取り付けられているゴミ見口も丁寧なつくりで、ユーザーが覗きやすい形に接眼部が作られています。アイピース内部の艶消し塗装も上質で、像のコントラスト向上に一役買っています。

また、個人的に31.7mmバレル部分に抜け止めの溝がないことにも好感を持ちました。アイピースのバレル部分に溝があると、望遠鏡接眼部の形状によっては、アイピースを締め付けられなかったり、中心からずれたりすることがあるので、溝はない方が使いやすいと思います。


恒星像の確認

TPLアイピースを使って、恒星像を確認しました。使用した望遠鏡はMewlon-250CRSとTOA130望遠鏡です。どちらも十分に外気になじませた上で、比較的気流の良い夜に観望しました。

まず最初に、アンドロメダ座α星のアルフェラッツを視野に入れました。ピントを合わせたとき、これまでのアイピースに比べて、恒星の周りのジフラクションリングがはっきり見えるように感じました。

試しに古いビクセンLVアイピースに交換してみると、ジフラクションリングの見え方が明らかに異なります。恒星像もぽってりとして、背景とのコントラストも悪くなり、TPLアイピースとの違いを感じました。

次に、タカハシLEアイピースに交換しました。LEアイピースも優秀なアイピースですが、ピントを合わせたときの恒星像の鋭さはTPLアイピースの方が優れていました。また、ジフラクションリングの第一円もTPLアイピースの方がよく見え、フォーカスが合ったときの鋭さの違いを感じました。特にTOA130との組み合わせで違いがよくわかりました。

アルフェラッツの次に、同じアンドロメダ座のアルマクを視野に導入しました。アルマクは美しい二重星として知られる星ですが、TPLアイピースで見ると、オレンジ色の主星の傍にエメラルドグリーン色の伴星が寄り添い、実に美しい眺めです。ジフラクションリングもはっきり見えて、シャープな星像で二重星の観察を楽しむことができました。


惑星を観望

TPLアイピースの性能を最大限に発揮できるのは、惑星の観望時でしょう。TOA130とMewlon-250CRSとTPLアイピースを使って、天頂で輝く木星を観望しました。

木星を視野に入れたとき、まず感じたのは「像が明るいな」ということです。縞模様のコントラストも良好で、赤道縞の乱れた様子もよくわかります。木星と背景の境目も暗く、宇宙に浮かんだ木星というイメージで見えました。

古いビクセンLVアイピースに交換して比べると、LVアイピースの像は背景が若干白っぽく、木星の周りもうっすらと明るく、コントラストが悪いと感じます。木星の模様のコントラストも低下しており、TPLアイピースと比べると見え方に大きな違いを感じました。

タカハシLEアイピースとも見比べました。LEアイピースもコントラストが高く、真っ暗な宇宙に浮かぶ木星というイメージで見えましたが、木星本体の明るさは、TPLの方がやや明るく見えるでしょうか。また、模様も、TPLアイピースの方が赤道縞の乱れた様子などがよく見える印象を受けました。特にTOA130との組み合わせの時に顕著で、TPLの方が像のシャープネスが高く感じました。

また惑星観望用として評判が高く、惜しくも生産終了になったビクセンHRシリーズのアイピースでも木星を見比べてみました。倍率は異なりますが、どちらもコントラストは良好で背景宇宙も真っ暗です。縞模様もよく見えますが、TPLアイピースの方が見かけ視野が広い分、視界が広く感じられました。評価の高いアイピースとの比較でも、TPLアイピースの性能の高さを感じました。


TPLアイピースのアイレリーフについて

アイレリーフとは、接眼レンズ最終面から全視野がケラレなく観察できる目の位置までの距離のことです。アイレリーフが長いと、接眼レンズから離れていても、全視野を見渡すことができます。

シャープで結像性能が高いTPLアイピースですが、アイレリーフは長くありません。最も高い倍率が得られるTPL-6mmでアイレリーフは4.5㎜、最も低い倍率のTPL-50mmで37mmです。

アイレリーフの短いTPL-6mmでは、全視野を見渡そうと思えば、ゴム見口に目を押し付けるようにして使用する必要があります。一般的に、眼鏡をかけて全視野を見渡すには、アイレリーフが15mm程度は必要と言われていますので、眼鏡をかけてTPL-6mmの全視野を見渡すのは難しいでしょう。

眼鏡が必要な場合は、アイレリーフ13mmのTPL-18mmに、高性能バローレンズ(タカハシ2×オルソバロー等)を組み合わせる方法もあります。販売店に相談しながらベストな組み合わせを選んでください。


まとめ

今回、発売されたTPLアイピースは非常に評判が高く、惑星観望に使うのを楽しみにしていました。実際に使ってみると、確かに評判通りの見え味で、Abbeアイピースをさらに進化させた光学性能という印象を受けました。

今まで様々なアイピースで惑星を見てきましたが、色が暖色系に転ぶことが多く、色の濁りが苦手な私には、不自然に感じることがありました。その点、タカハシのTPLアイピースの像はニュートラルで、一皮むけたような印象を受けました。

TPLアイピースは、現在購入できる惑星や二重星観望用のアイピースの中で、最も高い結像性能を持ったアイピースと言えるでしょう。是非、このアイピースで奥行きのある宇宙の姿をお楽しみください。

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ビクセンVSD90SSのインプレッション

ビクセンVSD90SSのインプレッション


ビクセンVSD90SS(以下「VSD90SS」)は、天体望遠鏡メーカーの株式会社ビクセンが製造・販売する天体望遠鏡です。2023年11月30日に発売開始され、ビクセンのフラッグシップ望遠鏡に位置づけられています。

今回は、VSD90SSをフィールドに持ち出し、天体観望や天体撮影を行いました。VSD90SSの結像性能と共に、前機種であるVSD100F3.8(以下「VSD100」)との比較についてもご紹介します。




ビクセン
VSD90SS鏡筒

K-ASTEC
TB115N

K-ASTEC
DP75-187

K-ASTEC
TTP60-117M

K-ASTEC
H35-100

K-ASTEC
DS38-45R-88

ZWO
ASI 2600MC PRO

ZWO
AM5



VSD90SSの概要

VSD90SSは、口径90ミリの天体望遠鏡です。口径だけを見ると、初級者が使用する口径80ミリの望遠鏡を一回り大きくしただけのようですが、望遠鏡の中身は大きく異なり、VSD90SSの望遠鏡内部には5枚ものレンズが使用されています。


上は、VSD90SSの断面図です。まるで望遠レンズのような、5群5枚のレンズ構成になっています。凸レンズにSDレンズ2枚と高屈折率EDレンズ1枚を使用し、凹レンズには新開発の高性能ランタン系ガラスが採用されています。これらのレンズの組み合わせにより、屈折望遠鏡で発生しやすい諸収差を大きく抑え込んでいます。

徹底した収差補正の効果により、天体撮影で気になる軸上色収差と非点収差は非常に少なくなっています。下はメーカーが発表しているスポットダイアグラムですが、フルサイズ周辺まで針で付いたような星像が結ばれています。


撮影可能範囲(イメージサークル)も広く、35ミリフルサイズはもちろん、44×33ミリ中判サイズの最周辺まで鋭い星像が得られる光学系になっています。


VSD90SSの外観

VSD90SSは白を基調としたボディで、フードにビクセンのロゴがあしらわれています。Vixenのアルファベットロゴは落ち着いたシルバーで、文字の一部が背景の白に溶け込んだ、控えめなデザインです。


VSD90SSの全長は約60センチで、前機種のVSD100に比べて10センチほど長くなりました。しかし、鏡筒フードを取り外しできるようになり、取り外すと約40センチまで短くなります。VSD100より可搬性が高まったと言えるでしょう。

接眼部は、ラック&ピニオン式が採用されています。ヘリコイドフォーカサーが採用されていたVSD100は望遠レンズのような外観でしたが、VSD90SSは天体望遠鏡らしい外観に変わりました。ラック&ピニオン接眼部の裏側には、ドローチューブクランプが設けられています。ビクセンの天体望遠鏡では初めての試みで、重い機材もしっかり固定できるようになりました。


VSD90SSの発売と同時に、VSD90SSに適合する鏡筒バンド「VSD鏡筒バンド115S」も発売開始されました。シングル型の鏡筒バンドで、VSD90SSに合わせると美しくマッチします。


VSD90SSの写真と星像

ビクセンVSD90SSを郊外に持ち出し、春の天体を撮影してみました。 撮影に使用したカメラは、ZWO社のAPS-Cサイズの冷却CMOSカメラASI2600MCProです。ASIAIRアプリでオートガイド追尾撮影を行いました。

撮影対象には、春の有名な系外銀河「M81とM82銀河」を選びました。下は、カメラのゲインを100に設定し、露出時間300秒で撮影した画像です。銀河がわかりやすいようにコントラストを強調しましたが、ダーク補正は行っていません。


元画像を一見した印象では、周辺減光は感じられず、色収差の発生も感じられません。まず、画像の一部を拡大して結像性能を確認しましょう。


上は、M81銀河を拡大した画像です。贅沢な光学設計のおかげで、色収差は感じられず、星像もシャープです。コントラストも良好で、M81銀河がはっきり写し出されています。

次に、周辺星像を確認してみましょう。下は、撮影画像の中心と周辺の星像を、ピクセル等倍で切り取った比較画像です。


各部分の星像を確認すると、中心部、APS-C最周辺部共に極めてシャープで、非点収差が良好に補正されていることがわかります。右下の星像が若干流れているのは、カメラのスケアリングの調整不足のためでしょう。画面全体にわたって非常にシャープなため、パッと見た限りでは周辺部か中心部かわからないほどです。


最後に、10枚画像を重ね合わせて画像処理後、銀河部分をトリミングした作例を掲載します。VSD90SSは色収差が良好に補正されているので、画像を強調しても星の色付が気になりません。また周辺光量が豊富なので、フラット補正を施さなくても作品に仕上げることができました。


VSD90SSの眼視性能

VSD90SSは撮影性能ばかりがクローズアップされますが、VSD90SSの視野中心は多波長ストレール強度96.7%と、同社の2枚玉EDアポクロマートSD81SⅡの95.7%を上回り、眼視性能も優れた望遠鏡です。


高い結像性能のおかげで、高倍率で観望しても恒星像は鋭く、焦点内外像も綺麗です。月面を観望しましたが、月のリムに色付きなどは感じられず、クレーターのエッジもよく解像しました。惑星の観望には少々口径不足の感がありますが、土星の環のエッジがシャープに見えたのが印象的でした。

非点収差が良好に補正されているので、広角アイピースと組み合わせて星空観望に使うのも面白いでしょう。少々贅沢ですが、星雲や星団の観望用としてもお勧めできる望遠鏡だと思います。


ただ、VSD90SSに付属している2インチアイピース用のVSD60.2-50.8アダプターは、接眼部に挿入する方式で使いにくく、いただけません。アダプターの内径の精度も低いようで、2インチアイピースを差し込んでも、アイピースがグラついてしまいます。せっかくのフラッグシップ機ですので、この点は改善してほしいところです。


VSD100F3.8との比較

VSD90SSと前機種のVSD100を比べると、光学性能の上では、VSD100の方が口径が約1センチ大きく、F値もVSD90がF5.5のところ、VSD100はF3.8とVSD100の方が約1段明るくなっています。

実際に撮り比べてみると、VSD100の方が、光学系が明るい分、露出時間が短く済みます。しかし、星像はVSD90SSの方がシャープで、系外銀河などを撮影すると、得られる画像の解像力の違いを感じました。


上画像は、ASI2600Mカメラを使用してVSD100とVSD90SSで撮影した、オリオン大星雲の写真の一部拡大画像です。見比べると、VSD90SSで撮影した画像の方が、星雲のディテールがよく写っており、星像も小さく鋭くなっています。

また、眼視性能でも違いが感じられました。VSD100で恒星像を見ると、VSD90SSと比べて鋭さに欠け、高倍率での観測は不向きです。もっともVSD100は、元々明るさ重視の光学設計で、眼視には向かないと発表されているため、この点については仕方ないでしょう。

周辺光量についても、VSD90SSはVSD100を上回っています。両望遠鏡を併用してみて、VSD90SSは、VSD100の光学設計を見直し、より一段、性能を高めた改善モデルだと感じました。


撮影後の印象

今回、ビクセンVSD90SSを天体観望や天体撮影に使用した印象を、以下に箇条書きでまとめました。


・色収差が少なく、星像も大変シャープ。画像全域にわたって鋭い星像を結び、光の回折により生じる輝星の非軸対称フレアも抑えられている。天体写真で理想とされる星像を結ぶ最新の光学系という印象を受けた。

・星像が鋭いため、VSD90SSの光学性能を生かすには、正確なピント合わせが必要と思われる。標準付属のピントノブでは、ドロチューブが大きく動いてしまうため、減速装置の付いた「デュアルスピードフォーカサー」や電動フォーカサー「EAF」を是非装備したい。

・周辺光量は非常に豊富で、APS-Cサイズなら周辺減光はほとんど感じられない。そのため、フラット補正が合いやすく、ミラーボックスのケラレが発生しない冷却CMOSカメラなら、フラット補正も必要ないくらいに感じた。

・他のビクセン製天体望遠鏡と比べ、ドロチューブの摺動部分はスムーズで強度も高く感じた。ドロチューブクランプの効きも良く、重い撮影機材をしっかりと受け止めてくれた。ただ、2インチアダプターは使いにくいので、是非、改善してほしい。

・ビクセンの高性能アイピース、HR2.0ミリを接眼部に挿し込み、星像を確認したところ、色収差は感じられず、星像も鋭く、ジフラクションリングも綺麗に見えた。VSD90SSは、写真性能だけでなく、眼視性能も優れた望遠鏡だと感じた。

・星像が鋭いので、温度変化によるピントズレには敏感だが、他社製の高性能天体望遠鏡(FSQ-106ED等)に比べると、ピント位置の変化が若干マイルドに感じた。

・VSD90SS鏡筒バンド115Sは、軽量で取り回しが良い一方、個体差かもしれないが、一杯に締め付けても締め付け力が若干弱いように感じる。撮影用途なら、支持幅を広げられる、K-Astecの鏡筒バンドシステムの方が、固定力や安定感の点で優れていると感じた。

・CP+2024でVSD90SS専用のレデューサーが発表されたが、眼視性能が良いだけに、是非エクステンダーも発表してほしい。補正レンズが揃えば、マルチに楽しめる一本となるだろう。


まとめ -VSD100ユーザーとして-

VSD100ユーザーとして、VSD90SSは、プロトタイプが展示された頃から気になっていました。口径と明るさは一段小さく、暗くなりましたが、VSD100についてメーカーに改善をお願いしていた点を最大限改良した鏡筒ということで発売を楽しみにしていました。

今回、実際に撮影等に使用して、VSD100で気になっていた点が全て改善されていること、星像も一段とシャープになり、完成度の高い鏡筒に仕上がっていることを確認できました。正直、ここまでの性能の望遠鏡になるとは思っていなかったほどです。

VSD90SSは、贅沢な光学系を採用しているため、口径9センチの望遠鏡としては非常に高価です。しかし、撮影性能と眼視性能を兼ね備え、撮影用として高レベルな作品も期待できる、頼もしい一本と言えるでしょう。

現在、市場で入手できる屈折式望遠鏡の中で、VSD90SSは最高レベルの光学性能を持った撮影用鏡筒の一つと断言できます。是非、ビクセンの新しいフラッグシップ機、VSD90SSを手に取って、その性能を体感してみてください。

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ビクセンSX2赤道儀WLリミテッドのインプレッション

ビクセンSX2赤道儀WLリミテッドのインプレッション

ビクセンSX2赤道儀WLは、自動導入機能搭載のワイヤレスユニット(WL)を付属した赤道儀です。ビクセンのラインナップの中では比較的廉価なモデルになりますが、SXD2と同じステッピングモーターを採用するなど、中身は本格的な仕様になっています。

このSX2赤道儀WL(以下「SX2赤道儀」)にKYOEI特別仕様を施したSX2赤道儀WLリミテッドが登場しました。望遠鏡取り付け部分を高剛性のヘッドに換装するなど、使いやすさを高めたモデルです。今回は、このSX2赤道儀WLリミテッド(以下「SX2リミテッド」)を使って天体観測や天体撮影を行い、そのポテンシャルを探ってみました。

SX2赤道儀について


SX2赤道儀は、以前販売されていたSX赤道儀(スフィンクス赤道儀)の後継機種として、2014年に発表されました。SX赤道儀は、天体ナビゲーション用のSTARBOOKを付属しており、天体観望ファンには一定の評価を得ていましたが、DCモーターを使っていたためパワーが不足しがちで、天体写真撮影には使いづらいという声もありました。

そこで、SX2赤道儀には、上位機種に用いられていたステッピングモーターを採用し、ベアリングの数もSX赤道儀の1個から5個に増やして、天体撮影にも使いやすいモデルに進化しました。

発売開始当初は、上位機種のSTARBOOK TENコントローラーではなくSTARBOOK ONEハンドコントローラー(上画像)が付属していたため、自動導入ができませんでした。しかし現在はSX2赤道儀にもワイヤレスユニット(WL)が付属し、上位機種と同じように、スマホのアプリから自動導入することができます。

SX2赤道儀とSX2リミテッドとの違い

SX2赤道儀とSX2リミテッドの大きな違いは、望遠鏡を取り付ける架頭部分です。


上は、架頭部分の比較写真です。左がSX2赤道儀で、右がSX2リミテッドです。SX2赤道儀の架頭にはアリガタプレートを受けるアリミゾ金具がありますが、SX2リミテッドの架頭にはありません。その代わり、プレートに、他社製のアリガタ金具などを固定できるネジ穴が切られており、ビクセン規格以外の他社製のアリミゾ金具も取り付けることができます。

下画像は、K-Astec製のアルカスイス/ビクセン規格両用のアリミゾDS38/45R-88をリミテッド仕様に取り付けたところです。アルカスイスとビクセン規格のどちらのアリガタも取り付けられる便利なアリミゾ金具で、SX2リミテッドの架頭はユーザーの幅広いニーズに対応できるようになっています。


また、SX2リミテッドの架頭は大径のボールベアリングを2個内蔵しており、強度や滑らかさの点でSX2赤道儀より優れています。実際に使ってみるとこの違いは大きく、赤緯方向のバランスをとりやすいなど、使い勝手も向上しています。

さらに、SX2リミテッドには、3.7キロと1.0キロの2種類のバランスウェイトと延長シャフトが付属しています。SX2赤道儀には1.9キロのバランスウェイトが一つ付属しているだけなので、望遠鏡を載せるにはウェイトを買い足す必要がありますが、SX2リミテッドでは、付属のウェイトと延長シャフトを組み合わせるだけで、軽い機材から重い機材まで搭載することができます。

なお、SX2赤道儀、SX2リミテッド共に、赤道儀の極軸を合わせるための極軸望遠鏡はオプション設定です。極軸合わせの方法はいくつかあるので、極軸合わせの方法のページをご覧いただき、やりやすい方法で合わせてください。今回は、KYOEIオリジナルの照明装置付極軸望遠鏡 AP/SX赤道儀用を使って極軸を合わせました。

SX2赤道儀の操作

SX2赤道儀の操作は、専用アプリ「STAR BOOK for Wireless Unit」をインストールしたスマートフォンやタブレット端末で行います。


まず、SX2赤道儀の端子に付属のワイヤレスユニットを取り付け、DC12Vの電源ケーブルを赤道儀本体の電源入力端子につなぎます。赤道儀の電源を入れると、ワイヤレスユニットから電波が発せられるので、それをスマホやタブレットと接続し、アプリで操作します。操作方法の詳細はワイヤレスユニットの使用方法にまとめていますので、そちらをご覧ください。

自動導入ができると、天体観望や天体撮影時の負担がかなり軽減されます。自動導入の操作や機能はAXD2赤道儀やSXD2赤道儀といった上位機種と全く同じですので、それらのユーザーならすぐに使いこなせるでしょう。

天体観望時の使い心地

SX2赤道儀に同社の屈折望遠鏡ビクセンED103S(SD103SIIの旧モデル)を載せて、木星を観望してみました。 ED103Sの本体重量は、約6.3キロです。SX2リミテッドに付属している2つのバランスウェイトと延長シャフトを使うと、バランスにまだ余裕があります。10キロ程度の機材でも十分バランスが取れそうです。

ED103Sは鏡筒が長く、決して小さな望遠鏡ではありませんが、自動導入時の赤道儀の動きはスムーズで、恒星でアライメントを行った後に木星を選ぶと、視野ほぼ中央に木星をとらえることができました。

200倍前後の倍率で木星を観望しましたが、気流の揺らぎは感じられるものの、振動などは感じられません。この夜は冬にしては気流が安定していたようで、木星の縞模様も綺麗に見えました。


また、SX2赤道儀に本体重量約1.5キロのビクセンFL55SSを搭載してみたところ、SX2リミテッドに付属の1キロのウェイトでバランスが釣り合いました(上画像)。リミテッド付属の2つのウェイトとシャフトを使えば、小型の望遠鏡からSX2赤道儀の搭載能力いっぱいの機材まで幅広く対応できるでしょう。

天体撮影時の使い心地

SX2リミテッド赤道儀に載せたED103Sに冷却CMOSカメラASI2600MCProを取り付け、天体撮影を行いました。ED103Sには、天体撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用し、口径40ミリのガイド鏡を赤道儀に同架して撮影しました。

上が、これらのセットで撮影した、オリオン座の馬頭星雲の写真です。8分露出した画像を10枚重ね合わせ、ステライメージ9でコントラストを高めています。

8分という比較的長めの露光時間でしたが、ガイドエラーは発生せず、どのコマも星はほぼ真円に写りました。下はオートガイド中のグラフですが、修正動作も問題なく実行されています。

馬頭星雲のディテール描写も良好で、さらに時間をかけてじっくり撮影すれば、迫力のある馬頭星雲の写真に仕上げることができそうです。

上位機種と比べてみて

SX2赤道儀の上位機種であるSXD2赤道儀は、ロゴが異なるだけで、外観はSX2赤道儀とほぼ同じですが、赤経赤緯の回転軸をアルミ軽合金から肉厚のスチール材に変更するなど、剛性を高めています。SX2赤道儀とSXD2赤道儀は、購入を比較検討する方も多いと思いますので、2つを使用した印象を比べてみました。

まず持ち運びの点ですが、SX2赤道儀の重量は7キロ、SXD2赤道儀は9.2キロです。2キロの違いですが、実際に持った時の印象はかなり違います。SX2赤道儀は、三脚から取り外す時も扱いやすく、持ち運びも苦になりませんが、SXD2赤道儀はずっしり感があり、三脚と取り外す時は負担感がありました。

観望や撮影では、SXD2赤道儀の方が重量がある分、安定感があります。しかし、ED103Sを使った撮影では、SX2赤道儀について、特にガイドエラーが大きく不安定といった印象は受けませんでした。架台の軽さが気になる場合は、三脚にストーンバックなどを付けて下方向の重量を足してやれば、安定感が増すと思います。

もちろん、耐荷重は異なるため、口径10センチを超えるSD115SS屈折望遠鏡R200SS反射望遠鏡を載せるなら、SXD2赤道儀が良いでしょう。逆に言えば、口径の小さな望遠鏡であれば、SX2赤道儀の方が軽くて扱いやすいので、気軽に観望や撮影を楽しめると思います。

SX2リミテッドは一つの有力な選択肢に

SX2赤道儀が発売開始されたときは、付属のハンドコントローラーでは自動導入もできず、あまり魅力を感じませんでしたが、現在は上位機種と同じワイヤレスユニットが標準装備され、有力な選択肢の一つになりました。

SX2リミテッドはそこに、3.7キロ+1.0キロのウェイトと延長シャフトを組み合わせ、SX2赤道儀の搭載性能をフルに発揮できるようにしました。

また、評価の高いSXP用架頭部分を採用した点もメリットです。昔に比べれば、SX2赤道儀の架頭の赤緯軸の動きもスムーズになりましたが、やはりベアリングを使用したSXP用架頭とは滑らかさが違います。アリミゾ金具が別途必要なりますが、SX2リミテッドの架頭の方が快適に使えるでしょう。

まとめ

SX2赤道儀の使用感は想像していたより良好で、口径10センチの天体望遠鏡を載せて天体観望や撮影を楽しむことができました。上位機種と同じモーターやワイヤレスユニットを採用している点が大きいのでしょう。 SX2リミテッドでは、赤緯軸周りの剛性も向上し、SXP赤道儀とほぼ同じような操作感が得られました。所有しているSXP赤道儀(11キロ)より4キロほど軽く、持ち運びしやすいので、今後はSX2リミテッドを遠征時のサブ機に使いたいと思ったほどです。 最近、ZWO社のスマート望遠鏡Seestarや電視観望をきっかけとして、天体写真に興味を持つ方が増えてきています。SX2リミテッドは、このような「これから天体撮影を始めてみたい」という方にとって、大きな選択肢の一つになると感じました。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

ビクセンSD103SIIのインプレッション

ビクセンSD103SIIのインプレッション


ビクセンの2枚玉SDアポクロマート望遠鏡SD103Sが、2023年6月にリニューアルされ、SD103SIIになりました。更に完成度の高まったSD103SIIを観望や実写に用い、使用感を確認してみました。
なお、前モデルであるSD103Sは、その前のモデルであるED103Sの接眼部を変更したものであり、最新モデルのSD103SIIは、SD103Sの対物レンズのスペーサーを変更したモデルです。そこで今回は、ED103Sのレンズスペーサーと接眼部を交換し、SD103SIIと同等の性能になったものを使ってテストしました。


対物レンズのリングスペーサー

屈折望遠鏡の対物レンズには、性質の異なる2枚のレンズが用いられており、この2枚のレンズの間に、スペーサーとして錫箔が挟まれています。

前モデルのSD103Sやその前のED103Sには、錫箔の小切片がレンズ外周部に3枚配置されていました。この小切片は、下画像のように対物レンズ有効径内に飛び出していたため、レンズに光が入射すると、回折により星像の周囲に放射状の欠けが生じました。

リニューアルされたSD103SIIでは、3枚の小切片がリング形状のスペーサーに変更され、対物レンズを遮らないように改善されました。

上画像は、リング形状スペーサーに交換後のレンズです。対物レンズへの飛び出しが無くなり、レンズがすっきりしました。


眼視で感じた星像の違い

光害のある自宅前で、リングスペーサーに変更されたSD103SIIを用いて木星を観望してみました。幸いこの日は気流が良く、縞模様がよく見えました。あくまで個人的な印象ですが、リングスペーサーに交換する前と比べて、縞模様のコントラストが向上したように感じました。

次に、恒星や二重星を用いて星像を確認しました。まず、アンドロメダ座α星のアルフェラッツを視野に入れました。

高倍率で見ると、錫箔が飛び出していた時は、星の外周部分にスパイダーの回折光のような突起が発生していましたが、SD103SIIでは改善され、滑らかになりました。また焦点内外像でも切れ込みがなくなり、星像が一段と引き締まった印象を受けました。

続いて、美しい二重星として知られるアンドロメダ座のアルマクを視野に入れます。2等星の主星と5等星の伴星が、オレンジとエメラルドグリーンに輝きながら寄り添っている姿がシャープに見え、色合いの違いもよくわかりました。

撮影画像で確かめた星像の違い

次に、SD103SIIと冷却CMOSカメラASI2600MCProを使って、明るい星をテスト撮影してみました。

下は、撮影した画像の全体像と、はくちょう座γ星の部分を拡大した画像です。

リングスペーサー交換前の鏡筒では、輝星の周囲に放射状の欠けが発生していましたが、リング形状スペーサーになったSD103SIIでは、星の周りに欠けは発生せず、星像が改善されていることが撮影画像からも確認できました。


SD103SIIで天体撮影

SD103SIIとZWO社の冷却CMOSカメラ ASI2600MCProを使用して、アンドロメダ大銀河を撮影しました。SD103S望遠鏡には、撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用しました。

上が撮影した画像です。8分露出した画像を8枚重ね合わせて、ステライメージ9でコントラストを高めています。

アンドロメダ大銀河の腕の部分も良く写っており、暗黒帯のディテール描写も良好です。また、明るい星にも回折による欠けは発生しておらず、銀河の周りの暗い星々もスッキリと綺麗に感じます。解像感も高く、露出時間をさらに増やせば、迫力のある写真に仕上がりそうです。



10センチ屈折は天文ファンのスタンダード

口径10センチクラスの屈折式望遠鏡は、国内外のメーカーから様々な機種が発売されています。特にF7クラスの2枚玉アポクロマート屈折望遠鏡は、オールマイティに使える天体望遠鏡として、天文ファンに根強い人気があります。

国内メーカーでは、高橋製作所がFC-100Dシリーズを発売しています。鏡筒径やF値を変えて、眼視用や写真用に3種類もラインナップしていることからも、10センチクラスの2枚玉アポクロマート天体望遠鏡の人気が高いことがうかがえます。

口径が10センチになると、天文入門者用の8センチクラスと比べて集光力に余裕があるので、倍率を上げることができ、惑星の模様もよく見えるようになります。それ以上の口径になると、一気に価格が上がり、望遠鏡も大きく重くなるので、扱いやすさの点でもバランスの取れた大きさでしょう。

基本に忠実なSD103SII

ライバル機の多い口径10センチクラスの望遠鏡の中で、ビクセンSD103SIIは、ED103Sの頃から安定した人気を集めてきました

長く人気を保ってきた理由は、基本に忠実に作られた製品だからでしょう。795mmという焦点距離は、今の時代としては少々暗めの設定ですが、高倍率を得やすく、惑星や月の観望に適しています。 撮影時の補正レンズとして、SDレデューサーHDキットも用意されており、これを使用すれば、焦点距離は624mmまで短縮され、F値も6.1まで明るくなります。このように本格的な天体撮影にも対応できるオプションが揃っている点も魅力です。



まとめ

今回のテストにより、SD103SIIはより完成度を高めた望遠鏡であることが確認できました。

撮影時の星像だけでなく、眼視時にも星像の周りのジフラクションリングの欠けがなくなり、前モデルに比べて星像に不自然さがなくなったと感じます。

今回のリニューアルによって、SD103SIIは、天体観測から本格的な天体撮影まで、幅広く使える望遠鏡になったと言えるでしょう。

上述の通り、口径10センチの天体望遠鏡は使い勝手が良く、一本は手元に置きたい望遠鏡です。ビクセンSD103SIIは、様々な楽しみ方ができる有力な候補になると思います。

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ビクセン ワイヤレスユニットの概要と使い方

ビクセン ワイヤレスユニットの概要と使い方


ビクセンのワイヤレスユニットは、同社製の赤道儀を無線で制御できるコントローラーユニットです。半導体不足の影響で一時は受注停止していましたが、受注再開後、徐々に人気が高まってきました。今回はワイヤレスユニットに興味を持ちつつも、使用したことがない方向けに、ワイヤレスユニットの概要や使い方をご紹介します。

コンパクトなワイヤレスユニット

ワイヤレスユニット本体は、従来のSTARBOOK TENコントローラーに比べると、液晶画面やボタンなどがないため、非常にコンパクトです。

ワイヤレスユニットは、ケーブル接続が必要だったSTARBOOK TENコントローラーと異なり、赤道儀に直接取り付けることができます。電源は赤道儀から供給されるので、別途電源を用意する必要はありません。注意すれば、赤道儀に取り付けたまま遠征に持ち出すこともできるでしょう。
ワイヤレスユニット本体には、LEDアクセスランプと、SBIG社製オートガイダーに準拠したオートガイダー端子が設けられています。

スマホアプリ STAR BOOK Wireless

ワイヤレスユニットを動かすには、スマホアプリ STARBOOK Wireless(以下「ワイヤレスアプリ」)をインストールしたスマートフォンかタブレットが必要です。 ワイヤレスアプリは無料で、各スマホのアプリストア又はビクセン公式サイトのQRコードを読み取ってダウンロードすることができます。


ワイヤレスアプリは、従来のSTARBOOK TENコントローラーに似た操作感になっています。ビクセンのSTARBOOK TENユーザーなら、違和感なく使用できるでしょう。初めての方は、以下の説明を読みながら動かしてみてください。

ワイヤレスユニットの初期設定と接続方法

ワイヤレスユニットとワイヤレスアプリを使って、天体導入を行う手順をご紹介します。まずは初期設定と接続方法です。ワイヤレスアプリのバージョンは、Ver1.4.2の画面で紹介しています。

ワイヤレスユニットを赤道儀に接続

赤道儀にワイヤレスユニットを取り付けましょう。固定ネジを締めて取り付けが完了したら、赤道儀の電源を入れてください。

ワイヤレスアプリを立ち上げる

スマホにインストールしたワイヤレスアプリを起動します。起動すると、ワイヤレスユニットの接続画面が表示されます。スマホがインターネットに接続している場合は、彗星軌道要素ファイルのダウンロードが可能です。


ワイヤレスユニットとスマホを接続

「次へ」のボタンをタップすると、スマホのWifi設定画面が開きますのでワイヤレスユニットを接続しましょう。


ワイヤレスユニットのSSIDは「VixenWirelessUnit????(「????」は4桁の数字)です。パスワードの初期値は「1234567890」です。
ワイヤレスユニットをスマホに接続できた場合は、以下のように「接続完了」という表示に変わります。


架台の設定

「接続完了」ボタンを押すと、架台の画面に切り替わります。ワイヤレスアプリを初めて使用する場合は、左下の「設定」ボタンを押して、アプリや架台の設定を行いましょう。


設定画面では、星図の表示モードや架台の詳細設定が可能です。天体を撮影する場合は、架台の詳細設定画面を開き、極軸、オートガイドの補正値を変更しておきましょう。おすすめの設定は、赤道儀の極軸合わせ「合わせている」、補正値「0.5倍」です。


設定が終わったら、最初の画面に戻って「前回の設定を使用する」を押すと、次回からその設定でワイヤレスアプリが立ち上がります。
なお、架台の設定は、星図画面からいつでも呼び出せるので、どのような設定がよいか迷う場合は一旦デフォルトで使ってみるとよいでしょう。

赤道儀の操作

ワイヤレスアプリの星図は、ピンチアウトで拡大したり、縮小したりすることができます。また画面右のスライダーでも拡大縮小が可能です。
赤道儀の移動は、タッチ&スライドで操作します。指で画面をスライドした方向に赤道儀も動きます。


赤道儀を大きく動かしたいときは、星図を縮小してスライド。少しだけ動かしたいときは、星図を拡大してスライドするとよいでしょう。
また、星図の上で、SCOPE MODEとCHART MODEを切り替えることができます。SCOPE MODEでは星図と望遠鏡の動作がリンクするので、赤道儀を動かすときは、SCOPE MODEで操作します。

自動導入の方法 その1

画面下に表示されている天体選択のアイコンを押すと、天体の一覧が表示されます。希望する天体を選択すると、「○〇を導入しますか」というダイアログボックスが表示され、OKを押すと自動導入が始まります。


導入速度は、架台の詳細設定の導入速度の項目で変更することができます。なお、赤道儀によって最大速度は変わりますので、その点は注意しましょう。

自動導入の方法 その2

CHART MODEにすると、星図と望遠鏡のリンクが外れるので、赤道儀を動かすことなく、自由に星図を動かすことができます。


星図上で天体を自動導入する際は、CHART MODEで目的の天体を探します。目的の天体が入るよう視野円を移動し、星マークを押しましょう。視野円内にある天体が表示され、目的の天体の名称を押すと自動導入が始まります。
なお、視野円内にワイヤレスアプリに登録されている天体がない場合は、天体名は表示されません。その場合は、星図中心を選ぶと、表示されている視野円の中心が導入されます。

アライメント

特に初めて自動導入を行った場合、実際に天体望遠鏡が向いている方向と、星図上に表示された円の中心がずれてしまうことがあります。

その時は、天体望遠鏡を覗きながら、タッチ&スライドで赤道儀を動かし、自動導入した天体を望遠鏡の視野中央に導きましょう。その後、右上の「ALIGN」ボタンを押すと、ワイヤレスアプリが位置を補正し、アライメントされます。一度アライメントを行えば、次回からは正確に自動導入できます。
なお、アライメントした天体の数は、画面右上のALIGNに表示されます。

LOCKについて

画面上に、「LOCK」ボタンがあります。「LOCKボタン」を押すと、タブレットやスマホ画面に不用意に触ってしまっても、赤道儀は動きません。

撮影中に赤道儀が動くと、星が流れて写ってしまうので、撮影中はLOCKするようにしましょう。

ワイヤレスユニットの通信について

発売当初、ワイヤレスユニットとスマホのWifi接続が切れやすいという声がありました。Wifi接続が切れると、赤道儀を操作することができません。しかしその後、ワイヤレスアプリのアップデートによって問題は改善され、現在は接続が安定するようになったようです。
実際に使用したところ、赤道儀から数mスマホを離しても通信は途絶えませんでした。また、車の横に設置した赤道儀を、車内から操作することもできました。


以前は、一晩中撮影していると、スマホを遠く離したわけでもないのに、接続が切れてしまうことがありましたが、アップデート以降は、切れてしまうこともなくなりました。
万一、ワイヤレスアプリやワイヤレスユニットのアップデート後も接続が安定しない場合は、スマホの機内モードへの変更やワイヤレスアプリのチャンネル変更をメーカーは推奨しています。Wifiが切れる場合は、このような方法も試してみましょう。
なお、Wi-Fi接続が不安定な場合や切れてしまった場合でも、ワイヤレスユニットの電源をOFFにしない限り、赤道儀側の追尾は継続されているので、大きな実害はないでしょう。実際、一度通信が切れてしまった時も、オートガイド撮影は問題なく成功していました。

ASCOMドライバーについて

2023年春、ワイヤレスユニットのASCOMドライバーが公開されました。ASCOMドライバーは、メーカーWebサイトからダウンロードすることができます。ASCOMドライバーを使用すると、ワイヤレスユニットをパソコンで接続し、操作できるようになります。
早速パソコンにインストールし、星空シミュレーションソフト、ステラナビゲーター10で使用してみました。


まず、ワイヤレスユニットとパソコンをWifi接続し、ステラナビゲーター10を立ち上げます。ステラナビゲーター10の望遠鏡コントロール画面を開き、ASCOM→ビクセン ワイヤレスユニットを選択してプロパティを押すと、下のようなセットアップ画面が表示されます。


セットアップ画面右上のコネクトボタンを押すと、ワイヤレスユニットを接続することができます。
接続後は、通常の赤道儀と同じように自動導入が可能です。天体撮影ソフトのステラショット2でも動作を確認できました。2023年8月現在、公開されているのは試作段階のβ版ですが、正規版が登場すれば、パソコンでも便利に使えるようになるでしょう。

最後に

ワイヤレスユニットは、発売当初はWifi接続が不安定でしたが、ファームウェアとアプリのアップデートを経て、現在は安定して接続できるようになりました。
STARBOOK TENコントローラーに比べてコンパクトで、ケーブル接続も不要なため、身軽に郊外に持ち出してタブレットやスマホで操作できるため、大変便利です。是非、ワイヤレスユニットを使った快適な天体観望や撮影をお楽しみください。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

AM5赤道儀レビュー 周辺パーツ編

AM5赤道儀をより快適に

コンパクトながら搭載力に優れたZWO社のAM5赤道儀が、天体写真ファンの注目を集めています。今回は、そのAM5を更に使いやすくするパーツをご紹介します。


AM5用のハーフピラー

AM5赤道儀は小型なので、鏡筒を天頂付近に向けると、鏡筒の接眼部が三脚に干渉してしまうことがあります。特に筒の長い屈折望遠鏡の場合は注意が必要で、モーター高速回転時に鏡筒と三脚がぶつかると、駆動モーターを痛めてしまうことにもなりかねません。

そこでお勧めしたいのが、ハーフピラーです。赤道儀本体と三脚の間にハーフピラーを追加すると、不動点が上がり、接触の危険性が減るため、安心して使えるようになります。 現在、AM5赤道儀用のハーフピラーとしては、ZWO社から「PE160」と「PE200」の2種類、迷人会工房からも「鋼の柱君 HH-01」が発売されています。

上は、私が使用している「鋼の柱君 HH-01」の写真です。HH-01は、ZWO社のハーフピラーに比べると若干重量がありますが、3本の直径20㎜ステンレス製支柱に加え、ねじれ剛性を高める中央柱が装備されており、赤道儀と三脚をがっしりと固定することができます。 実際、10キロ以上の機材を載せて撮影していますが、強度不足は全く感じられません。AM5赤道儀用として、お勧めできるハーフピラーと思います。
※レビュー使用機材の「鋼の柱君 HH-01」はプロトタイプのため 、製品版と一部仕様(カラー)が異なります。

AM5用 極軸望遠鏡やPole Master取付アダプタDP31-AM5

AM5赤道儀には、極軸望遠鏡が装備されていません。メーカーは、ASIAIRで使用することを前提に設計しており、極軸合わせはASIAIRのPA機能(Polar Alignment機能)で合わせることを推奨しています。

PA機能は便利ですが、ASIAIRを持っていないユーザーには極軸を合わせる手段がありません。その問題を解消するため、Pole Masterや極軸望遠鏡を取り付けるアダプターDP31-AM5が、K-Astecから発売されました。
DP31-AM5は、アリガタ形状をしており、AM5赤道儀の側面に設けられたアリガタ金具に固定することができます。また、付属のネジを使って、AM5赤道儀本体に直接固定することも可能です。

DP31-AM5の北側にはカメラネジが固定されており、ポールマスターアダプターUNC4分の1をねじ込んで、PoleMasterを取り付けることができます。また、南側にあるネジ穴を利用して、光学式の極軸望遠鏡XY70-55PFを取り付けることもできます。
以下、実際にAM5赤道儀DP31-AM5を取り付け、PoleMasterや極軸望遠鏡を使って極軸を合わせた後、天体撮影を行ってみました。

極軸望遠鏡 XY70-55PFの使い心地

XY70-55PFを覗くと、北極星を導入するためのスケールが見えます。KYOEI オリジナル極軸望遠鏡(AP赤道儀用/SX赤道儀用)でもおなじみのiOptron社のスケールで、暗視野照明も搭載されており、都会の星空でも北極星がよく見えます。

北極星の導入位置は、スマホのアプリで確認できます。極軸望遠鏡スケールの水平垂直を合わせた後、アプリが指し示す位置に北極星を導入すれば、極軸合わせが完了です。非常に簡単で、以前から極軸望遠鏡を使っていた方にとっては、待望のアイテムだと思います。

極軸合わせの後、焦点距離500mmの望遠鏡を使ってオートガイド撮影し、追尾状況を確認していると、極軸が僅かにずれているように感じました。そこで、Pole Masterで表示された導入位置との差を調べてみたところ、約15′ずれていました。
XY70-55PF は、赤道儀の側面に取り付けるタイプの極軸望遠鏡なので、回転軸と若干ずれてしまうのが原因でしょう。しかし、ズレ量はそれほど大きくないため、電視観望、観望用途では十分な設置精度だと思います。タブレットやパソコンを開くことなく、素早く極軸を合わせたいときに重宝するアイテムでしょう。

Pole Masterでの極軸合わせ

DP31-AM5に別売りのポールマスターアダプターUNC4分の1を取り付け、そこにPole Masterを取り付けました。赤道儀の中心と少し離れていますが、北極星は無限遠の彼方にあるので導入精度には問題ありません。
パソコンにインストールしたPole Masterのソフトウェアを起動し、画面指示に従って、AM5赤道儀を回転させながら、極軸を合わせました。

その後、極軸望遠鏡の時と同じように、焦点距離500mmの望遠鏡でオートガイド撮影を実施したところ、極軸ズレは確認できませんでした。
Pole Masterを使用するにはパソコンが必要になりますが、ASIAIRを使わずに、正確に極軸合わせられる点がメリットでしょう。

バランスウェイトシャフト

AM5赤道儀には、バランスウェイト無しで13キロまでの機材を搭載することができますが、大きな機材を載せると、天頂付近に望遠鏡を向けたときにバランスを崩し、機材を転倒させる危険があります。
ビクセンFL55SSRedCat51等の小型軽量の機材の場合は問題ありませんが、大きな望遠鏡の場合はバランスウェイトを搭載する方が安全です。

ZWO社から、AM5用ウェイトシャフトが発売されています。軸径が20ミリなので、ビクセンのSX赤道儀用バランスウェイトを使うことができます。

※上は、AM5用ウェイトシャフトが手元になかったため、代用としてKYOEI AZ-GTi用20φウェイトシャフトを取り付けてテストした様子です。KYOEIオリジナルのAZ-GTi用20φウェイトシャフトも同じM12規格のため、AM5赤道儀にねじ込むことができます。しかし、本来AM5には適しておらず赤道儀へのねじ込み部分が長いので、ねじ込み過ぎると赤道儀の内部回路に接触し、破損や故障につながる恐れがあります。 上の例ではねじ込み部分にM12の蝶ナットを追加して、深くねじ込み過ぎないよう注意して使用することができましたが、決して真似はなさらないでください。純正品の使用を推奨します。

まとめ

今回は、AM5赤道儀用のハーフピラー、極軸合わせ支援ツール、それにバランスウェイトシャフトをご紹介しました。中でもハーフピラーは、是非活用したいアイテムだと思います。
ASIAIRのPA機能は便利ですが、北極星の西側の星が見えない場合は使えないなど、少々使いにくい点もあるので、極軸望遠鏡やPole Masterの取り付けアダプターDP31-AM5もおすすめです。用途に合わせて、極軸望遠鏡やPole Masterの取り付けを検討してみてはいかがでしょうか。
バランスウェイトについては、ビクセンやタカハシの赤道儀と異なり、AM5赤道儀にはクランプフリーがないため、正確にバランスを取ることはできませんが、転倒防止のために、取り付けることをお勧めします。
これらのパーツでAM5赤道儀の操作をより快適にし、天体撮影や観望を楽しんでみてはいかがでしょうか。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

AM5赤道儀のインプレッション

AM5赤道儀のインプレッション

AM5赤道儀は、ZWO社が開発した、波動歯車を用いた赤道儀です。2022年春の発売開始以降、天体写真ファンの注目を集めているこの赤道儀を、実際に天体撮影に使用したので、使い勝手や使用感をご紹介します。


波動歯車を用いたAM5赤道儀とは 一般的な赤道儀は、複数の歯車を用いて、モーターの力を回転軸に伝えています。赤道儀に用いられている個々の歯車は、高精度に加工されていますが、歯車同士をスムーズに動かすためには、ある程度の隙間が必要です。これが、バッククラッシュの原因となり、オートガイド時の反応の鈍さにつながっていました。

一方、AM5赤道儀の動力モーターには、波動歯車を使った駆動装置が採用されています。波動歯車駆動装置の魅力は、バックラッシュがほとんど発生しないことです。
ただ、波動歯車は産業用ロボット目的で開発されたため、歯車の精度は高くはなく、追尾精度の面では一般的な赤道儀に及びません。しかし、AM5赤道儀では、恒星時追尾に適した減速比の歯車装置とベルトドライブを採用することでこの点を克服し、バックラッシュがほとんどなく、天体撮影にも対応できる精度を実現したとメーカーはアナウンスしています。

AM5赤道儀の外観

AM5赤道儀の搭載可能重量は、ウェイトレスで約13キロ、別売りのカウンターウェイトを取り付ければ約20キロと、中型赤道儀並みです。しかし、本体重量は5キロと非常に軽く、片手でも持ち上げられる重さです。

上は、ビクセンのSXP赤道儀と並べた様子です。SXP赤道儀に比べ、一回り以上小さく感じられます。
AM5赤道儀の架台ヘッドには、ロスマンディ規格とビクセン規格のアリガタを搭載できるアリミゾが標準で付属しています。2つのクランプで固定する形式が採用されており、固定力も強く、質感も良いと感じました。

架台には、極軸を合わせるための微動装置が取り付けられています。東西方向は、両側からネジで支持棒を挟み込む仕様、高さは南側のネジで押し上げる機構です。赤道儀の側面にそれぞれの固定ネジが取り付けられており、極軸合わせ後、しっかり架台を固定できるようになっています。
AM5赤道儀の北側には、USB端子や電源端子などを差し込むパネルが装備されています。電源スイッチは、赤道儀本体側面にあります。なお、極軸望遠鏡は装備されていません。
赤道儀の色は、ZWO社のイメージカラーである赤と黒を採用しています。赤道儀は白基調が多いところ、スタイリッシュさの感じられる配色です。

AM5赤道儀の追尾精度

天体写真撮影はオートガイド撮影が主流となりましたが、やはり赤道儀の追尾精度は天体写真ファンにとって気になる点です。 個々のAM5赤道儀には、メーカーが測定したPEモーションのグラフが付いています。

上の図は、私が使用したAM5赤道儀に付いていたグラフで、約±12秒のPEエラー量となっています。

実際に恒星を使って測定した結果が上の写真です。±13秒程度と読み取れ、ほぼメーカーの測定値の性能が出ていることが確認できました。

AM5赤道儀の操作

AM5赤道儀には、ハンドコントローラーが付属しています。ジョイスティック式のハンドコントローラーを動かすと、赤道儀がスムーズに高速駆動し、まるでゲームをしているかのような感覚で赤道儀を操作することができます。

ハンドコントローラーの追尾ボタンを押すと、恒星時追尾が開始され、このままでも天体観望や初歩的な天体撮影は可能です。ただ、自動導入はできません。スマホやタブレット上で動くアプリ、ASI Mountを使えば、自動導入も可能になりますが、AM5赤道儀の機能をフルに使って天体撮影を楽しむには、ASIAIRとの連携が必要になります。
AM5赤道儀ASIAIRの接続は、USBケーブルでつなぎます。電源はどちらもDC12V電源で、AM5側面のDC出力端子から、ASIAIRに電源を供給することが可能です。

ASIAIRAM5赤道儀の他、同社のカメラやオートガイダー、周辺機器をつなげば、自動導入からプレートソルビング(自動導入補正)まで、快適に天体撮影を行えるようになります。

パソコンとの接続

ZWO社の公式Webサイトで公開されているAM5用のASCOMドライバーをパソコンにインストールすれば、パソコンからAM5赤道儀を制御することができます。
実際に、ASCOMドライバーをインストールし、ステラショット2やステラナビゲーター10で動作を確認してみました。

接続手順としては、まず、AM5赤道儀とパソコンをUSBケーブルで接続します。次に、ソフトウェアの赤道儀の接続ダイアログ上でASCOMを選択し、AM5が接続されているcomポートを選択しましょう。ASCOMのダイアログボックス上でASI Mountを選んで接続ボタンを押すと、ASI Mount ASCOM Serverというプログラムが自動的に起動し、ソフトウェアとAM5赤道儀の接続が確立されます。
AM5赤道儀をパソコンから動かしている間は、ASI Mount ASCOM Serverを閉じることはできません。このプログラムを介して、ステラショット2やステラナビゲーターが動いているのでしょう。
接続さえ確立されれば、他の赤道儀と同じように、星図を見ながら自動導入を行うことができます。ちなみに、今でも使用者が多いTheSky6は、LX200互換モードで接続することができました。
なお、ZWO社では現在、パソコン上で動く自動導入アプリを開発しているようです。今後は純正ソフトを使って、パソコンからも自動導入が可能になると思われます。

AM5赤道儀を使って天体撮影

AM5赤道儀を使って、実際に星空を撮影してみました。 使用した天体望遠鏡は、タカハシFC-100DZ望遠鏡です。タカハシFC-100DZの本体重量は約4キロですが、プレートや鏡筒バンド、ガイド鏡、カメラ等を合わせると、7キロほどになりました。

上は、赤道儀に機材一式を搭載した様子です。バランスウェイト無しですが、機材の転倒を防止するため、三脚のストーンバックに3キロのウェイトを入れて重心を下げています。
まず、極軸を合わせます。AM5赤道儀には極軸望遠鏡が装備されていないため、ASIAIRのポーラーアライメント機能(以下「PA機能」)を使って、極軸を合わせました。PA機能を動かすと、天の北極付近の星を撮影した後、赤道儀が極軸に向かって左回りに約90度回転し、天の北極と回転軸のズレを解析します。必要な修正量や向きが表示されるので、架台の微動ネジを回して調整を繰り返します。

網状星雲を自動導入して撮影しました。撮影中、オートガイドのエラー値を注視していましたが、EM-200等に比べると、赤経方向のエラー値が若干大きく感じられたものの、収束は早く、モーターのレスポンスの良さを感じました。

上は、実際に撮影した画像です。拡大しても星像の流れは感じられず、撮影した全ての画像で点像を保っていました。バランスウェイト無しでも十分な追尾精度を得られると感じました。 AM5赤道儀で惑星撮影 ”波動歯車を使った赤道儀は、惑星撮影などの高倍率での天体撮影には不向き”という意見も耳にします。AM5赤道儀にセレストロンEdgeHD800-CG5を載せて、木星を撮影し、確認してみました。

セレストロンEdgeHD800-CG5は、口径約20センチのシュミットカセグレン式天体望遠鏡です。約6.4キロのこの鏡筒をAM5赤道儀に載せ、バランスウェイト無しで木星を観望しました。
木星を約300倍で見たところ、縞模様もよく見え、振動も感じられません。一般的なウォームギアを使った赤道儀に比べて、特に像が大きくぶれるということは感じられませんでした。
次に、望遠鏡にバローレンズ(パワーメイト)を取り付け、惑星撮影用のCMOSカメラ、ASI662MCで木星を撮影しました。

上は、撮影後、画像処理して仕上げた木星の写真です。気流が良くなかったためか、詳細な模様は写っていませんが、特徴的な大きな模様はよく写りました。
上記の結果から、AM5赤道儀は、惑星観望や撮影にも使用できると感じました。

AM5赤道儀の印象

AM5赤道儀を使用した印象や、上記で記載できなかった内容を以下に列挙します。
軽量でコンパクトなAM5赤道儀だが、セレストロンEdgeHD800-CG5とガイド鏡等を載せても動作はスムーズで、思った以上に強度があると感じられた。
PA機能は便利だが、北極星の西側の星を使って解析するため、我が家のように北極星の西側の視界が悪い場合は、極軸合わせに失敗してしまう。何か他の方法も追加してほしいところだ。ちなみに、私はPole Masterを付けられるアダプターを自作して対応した。(※AM5用のポールマスター&光学極望アダプターは現在開発中でKYOEIより近日発売予定です)
バランスウェイト無しで運用できるのは便利だが、鏡筒を天頂付近に向けたときにバランスを崩し、機材を転倒させてしまう恐れを感じる。安全のため、三脚のストーンバックに重りを置くか、面倒でもバランスウェイトを取り付けた方が安心だ。
ZWO社の純正三脚は、軽いが強度もあり、使い勝手は良好だった。アダプターを製作してジッツォ三脚にAM5赤道儀を取り付けようとも考えたが、純正三脚の方が、下からボルトで締めあげるので、強度的に有利だと思う。
AM5赤道儀はコンパクトなため、FC-100DZのような筒が長い屈折望遠鏡を載せると、カメラが三脚に干渉してしまう。迷人会工房製のハーフピラー(※近日発売予定)を追加したところ、三脚への干渉も減り、快適に使用できた。
ZWO社の純正赤道儀ということもあり、同社のASIAIRとの連携は良好で使いやすい。今後、ソフトウェアのアップデートで機能が追加される予定もあり、可能性を秘めた機材だと思う。
AM5赤道儀とパソコンは、Wifiで接続可能だが、私が試した限り、ステラショット2やステラナビゲーターでは、USBケーブルをつなぐ必要があった。ソフトウェアアップデートで、Wifiでも繋がるようにしてほしいところだ。

まとめ

実際に天体撮影に使用してみて、AM5は、ZWO社初の赤道儀ということを感じさせない、基本性能に優れた架台だと感じました。追尾精度も良好で、従来のウォームギア式赤道儀と比べても遜色ありませんでした。 小型軽量にもかかわらず、バランスウェイト無しでも10キロ程度の機材を搭載できる強度があり、モーターにパワーがあるためでしょう、撮影中は中型クラスの赤道儀を使っているような安定感がありました。 これまで、波動歯車を搭載した赤道儀は非常に高価だったため、あまり普及しませんでしたが、コストパフォーマンスの優れたAM5赤道儀の登場で、一気に様子が変わってきたように感じます。まさに、天体撮影のゲームチェンジャーではないでしょうか。是非、このAM5赤道儀を使って、新しい世界を体感してみてはいかがでしょうか。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

セレストロンC8 SCT OTA CG5のインプレッション

セレストロンC8 SCT OTA CG5のインプレッション

セレストロンC8 SCT OTA CG((以下「セレストロンC8」)は、セレストロン社が製造している口径203㎜(8インチ)、焦点距離2032㎜のシュミットカセグレン式天体望遠鏡です。


セレストロンC8は、惑星や月から星雲・星団の観察までオールマイティに使用できるため、天文ファンに人気の高い鏡筒です。今回は、セレストロンC8の使い勝手や使用感についてご紹介します。


コンパクトなシュミットカセグレン式天体望遠鏡

セレストロンC8の光学系には、シュミットカセグレン式(正確には、コンパクト・シュミットカセグレン式)が採用されています。


鏡筒の底部には、光を集める主鏡(凹面鏡)が取り付けられています。主鏡で集められた星の光は、筒先にある副鏡(凸面鏡)で反射し、接眼部に導かれますが、この2つの鏡は球面鏡のため、諸収差が発生します。この収差を補正するため、筒先にシュミット補正板が取り付けられています。

シュミットカセグレン式は、同口径の20センチニュートン反射式と比べると、筒長を短くできる点がメリットです。下画像は、同じ口径のニュートン式反射(F6)と並べた写真ですが、長さの違いがよくわかります。


セレストロンC8はコンパクトなため、鏡筒本体重量も約5.7キロと軽量です。自宅だけでなく、キャンプ場などにも持ち運びやすい望遠鏡です。女性でも気軽に持ち運ぶことができるでしょう。


セレストロンC8の使い勝手

セレストロンC8は、コンパクトで軽いだけでなく、使い勝手も良好です。

望遠鏡の底部には、架台に載せるためのアリガタ金具が固定されており、鏡筒バンドを別途購入する必要はありません。購入してすぐにアリミゾ台座が設けられた赤道儀や経緯台に載せて使用することができます。

鏡筒の底部には、持ち手が取り付けられています。ちょっとしたことですが、持ち手があると、安心して持ち運び、架台に載せることができます。

セレストロンC8のピント合わせ機構には、主鏡を前後に動かす方式が採用されています。本格的な天体撮影では、ミラーシフトが生じる場合があり、この方式を避ける方もいますが、初心者にとってはピント合わせのイメージがしやすく、操作しやすいでしょう。


大口径で楽しむ天体観望の世界

口径20センチは、大口径天体望遠鏡の入り口です。肉眼の 841 倍の集光力は素晴らしく、口径8センチや10センチとは明らかに異なる世界が広がります。


夜空の綺麗な場所での天体観望では、小口径とは集光力に大きな違いを感じます。小口径では見えづらかった系外銀河の腕もよりはっきりと見えますし、小口径ではそもそも見えなかった天体の姿を確認することもできます。

都会での天体観望で人気の高い木星や土星について、同じ倍率の小口径と比べると、覗いた瞬間、像が明るいと感じます。倍率を上げれば、木星の縞模様も小口径より詳細に見えますし、土星の環にあるカッシーニの隙間もよりはっきり見えます。


上の写真は、セレストロンC8とZWO社のCMOSカメラで撮影したものです。惑星の撮影では、コンパクトで大口径を得られるセレストロンのシュミカセシリーズの人気は高いです。

天体撮影や電視観望にも使用可能

セレストロンC8にオプションのTアダプターとカメラマウントを取り付ければ、天体撮影や電視観望を楽しむことも可能です。

さらに、オプションの「レデューサー 0.63x SCT用」を使用すると、像面湾曲が改善され、焦点距離も0.63倍に短縮され、F値も10から6.3と明るくなり、天体撮影や電視観望に使いやすいでしょう。

上は、私が以前、所有していた、ミード社の同口径の20センチのシュミットカセグレン望遠鏡にレデューサー0.63xを使用して撮影した、子持ち銀河の写真です。渦を巻いた銀河が明瞭に写っています。

電視観望では、F値が暗いため露光時間がかかりますが、逆に焦点距離の長さを生かして、明るく小さな惑星状星雲を撮ると面白いと思います。

なお、天体撮影メインでシュミットカセグレン式望遠鏡をお探しなら、補正レンズを最初から組み込んだ、同社のEdgeHDシリーズもあります。EdgeHDシリーズなら、ミラーシフトを防止するミラークラッチ機構も搭載されています。


まとめ

オレンジ色のセレストロンC8が日本市場に初めて登場した時、「大口径なのにコンパクト!」と天文ファンの注目を集めました。

それから30年以上経ち、光学系に目新しさは感じられませんが、大口径の入り口として依然として人気の高い、定番とも言える鏡筒です。私も今回、久しぶりにセレストロンC8を使用して、改めて使いやすい望遠鏡だと感じました。

セレストロンC8の魅力は手軽な大口径です。小口径からステップアップしたい初中級者の方だけでなく、ベテランの方にも是非手に取っていただき、その魅力を感じていただければと思います。


レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

ビクセン SD81SIIのインプレッション

ビクセン SD81SIIのインプレッション

天文入門者にも人気の高いビクセンSD81Sが、2021年10月にリニューアルされ、SD81SIIになりました。完成度が高まったSD81SIIを実写に用い、使用感を確認してみました。

なお、SD81SIIは、前モデルであるSD81Sの対物レンズのスペーサーを変更したマイナーチェンジモデルですので、レンズスペーサー交換を行ったSD81Sを使ってテストを行いました。


SD81Sとの違いは対物レンズのスペーサー

屈折式天体望遠鏡の対物レンズには、2枚の性質の異なるレンズが用いられており、この2枚のレンズの間に、スペーサーとして錫箔が挟まれています。

前モデルのSD81Sには、錫箔の小切片がレンズ外周部に3枚配置されていました。この小切片は、下画像のように対物レンズ有効径内に飛び出していたため、レンズに光が入射すると、回折により星像の周囲に放射状の欠けが生じました。

リニューアルされたSD81SIIでは、3枚の小切片がリング形状のスペーサーに変更され、対物レンズを遮らないように改善されました。

上画像は、リング形状スペーサーに交換後のレンズです。対物レンズへの飛び出しが無くなり、レンズがすっきりしているのがわかります。


実写で感じた星像の違い

リング形状スペーサーの効果を調べるため、SD81SIIを郊外に持ち出し、冷却CMOSカメラを使って実写テストを行いました。

下は、はくちょう座γ星付近を写した写真の比較画像です。

前モデルのSD81S(右側)では、輝星の周囲に放射状の欠けが発生しています。一方、リング形状スペーサーに変更されたSD81SIIでは、星の周りに欠けは発生しておらず、星像が改善されていることが確認できます。


SD81SIIで天体撮影

SD81SIIとZWO社の冷却CMOSカメラ ASI2600MCProを使用して、夏の天体、干潟星雲付近を撮影しました。なお、SD81SIIには、天体撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用しています。

上は撮影画像を、ステライメージ9で画像処理して仕上げた写真です。天候が不安定だったため、十分な露光時間を取ることができませんでしたが(8分露出×4枚)、干潟星雲だけでなく、猫の手と呼ばれる淡い星雲の色合いもよく写っています。

干潟星雲を部分拡大してみると、星雲のディテール描写も良好で、口径8センチとは思えない解像感を感じました。

写し出された明るい星にも回折による欠けは発生しておらず、星雲の周りの暗い星々もスッキリと綺麗に感じます。


タカハシFC-76DCUと比較して

ビクセンSD81SIIと並んで天文入門者に人気の高い望遠鏡が、タカハシFC-76DCUです。対物レンズがSDレンズかフローライトレンズかという違いはありますが、どちらも口径約8センチで、持ち運びしやすいため、購入時によく比較検討される望遠鏡です。

そこで、SD81SIIとタカハシFC-76DCUの2本を赤道儀に同架し、恒星像を確認してみました。

高倍率で焦点像のシャープさを比較したところ、ほとんど違いは感じられません。色収差についても、両鏡筒共によく補正されており、色づきはほとんど感じられませんでした。

次に、月を望遠鏡の視野に入れてみました。色収差の大きな望遠鏡では、月の欠け際が色づいて見えますが、どちらの望遠鏡も色づきは感じられず、スッキリとシャープな月面観望を楽しめました。

倍率を上げると、口径の大きいSD81SIIの方がやや視界が明るく感じられましたが、それほど大きな違いではないでしょう。


オプションではSD81SIIが有利か

FC-76DCUは鏡筒バンドが別売りですが、SD81SIIには鏡筒バンドやアリガタ金具だけでなく、金属製キャリーハンドルも付属しています。鏡筒さえ購入すれば架台に搭載することができる点は、購入検討時の大きなポイントでしょう。

接眼部については、FC-76DCUは1.25インチ専用タイプですが、SD81SIIは2インチにも対応しており、市販されている様々なアイピースを使用することができます。また、観望に便利なフリップミラーも標準付属しています。

天体観望時に使用するファインダーとしては、FC-76DCUには6倍30mmの光学式ファンダーが付属しています。一方、SD81SIIには、XYスポットファインダーIIが付属していますが、光学式ファインダーに比べて若干見辛い点が残念です。

天体撮影については、FC-76DCUSD81SII共に、光学性能に優れたフラットナー、レデューサーと呼ばれる補正レンズがオプション設定されていますが、FC-76DCUのレデューサーはAPS-Cサイズまでしか対応していません。

一方、SD81SIIのレデューサーHDは、35ミリフルサイズまで対応していますので、35ミリフォーマットで撮影する場合には、SD81SIIの方が適しています。


まとめ

今回のテストを通じて、SD81SIIは完成度の高い望遠鏡であることを確認できました。

天体写真時の星像をご紹介しましたが、眼視時にも星像の周りのジフラクションリングの欠けがなくなり、前モデルに比べて星像に不自然さがなくなりました。

今回のリニューアルによって、SD81SIIは、天体観測から本格的な天体撮影まで、幅広く使える望遠鏡になったと言えると思います。ビクセンの81S鏡筒シリーズの終着点とも呼べるSD81SIIで、様々な楽しみ方を試してみてはいかがでしょうか。


レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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