ビクセンAX103S鏡筒の実力
ビクセンのAX103S望遠鏡は、3枚玉の対物レンズとフィールドフラットナーレンズを組み込んだ最新鋭の屈折望遠鏡です。ビクセンのカタログの中でも、フォトビジュアルタイプのフラッグシップモデルとして紹介されています。今回、試写する機会が得られましたので、写真性能を中心にその使い心地を探ってみました。
AX103S望遠鏡の特徴
この望遠鏡を持ってみると、同じビクセンの10センチ望遠鏡ED103Sよりも重いことがすぐにわかります。実際、鏡筒の重量は6.4キログラムで、口径の一回り大きなED115Sよりも重量があることがカタログスペックからわかります。対物レンズが3枚玉であることで鏡筒重量が増したのでしょう、鏡筒の前後のバランスもずいぶんと前寄りになっていました。
鏡筒の対物フードの周りには、ゴールドのラインが走っています。ED103S望遠鏡がブルーのラインですから、すぐにこの望遠鏡がAX103Sであることが外観からわかります。また、対物レンズ側からフード内をのぞき込むと、レンズのセルには下の写真のような飾り環が取り付けられています。周りには「VIXEN APO MAXIMUM OPTICS」と刻印されていて、ビクセンのこだわりが感じられます。
この対物レンズ自体も、ED103Sと比べて透過率がよく感じられました。ビクセン社によれば、PrecisionMuliticoatingという技術を採用して透過率を99.5%まで高めたとのことです。レンズを前から見ただけでもその効果が感じられるほどで、レンズがより透き通った印象です。店頭で見比べてみられると、その様子がよくわかると思います。なお、AX103Sのフードは伸縮式になっています。
AX103S望遠鏡の一番大きな特徴は、フィールドフラットナーレンズが標準装備されていることでしょう。ドロチューブ側からのぞき込むと、少し奥にフラットナーレンズが装備されていることがわかります。ドロチューブの動きに合わせて前後に動くので、きっとレンズはドロチューブ内に固定されているのでしょう。このフィールドフラットナーレンズの効果によって、視野周辺まで鋭像を期待できるのが、このAX103S望遠鏡の大きな魅力です。
ビクセンAX103S望遠鏡の実写性能
このビクセンAX103S望遠鏡を郊外に持ち出して、デジタル一眼レフカメラと組み合わせて撮影してみました。今回撮影に使用したカメラはキャノンEOSKissDXです。キャノンEOSKissDXはフィルター改造を施していない普通のデジタル一眼レフカメラです。
下の画像がこのAX103S望遠鏡で撮影した球状星団です。デジタルカメラの感度はISO1600に設定し、露出時間は5分で撮影しました。ホワイトバランスを合わせただけの一枚画像です。小さい画像なのでわかりづらいですが、星像は非常にシャープで球状星団の星の集まりもよく分解されています。フィールドフラットナーの効果も発揮されていて、端まで星は点像を保っています。
下に上の画像の球状星団部分をトリミングした画像を載せました。露出時間が短かったため、画像には少しノイズが目立ちますが、色収差などは感じられず、AX103S光学系の特徴がよくわかります。もう少し空の条件が良いところでじっくり撮影すれば、より滑らかな画像が得られるでしょう。
冷却CCDカメラST2000XMを使って撮影も行いました。残念ながら天候状態が悪く、十分な撮影時間をかけられませんでしたが、それでも下のように美しい渦巻銀河を写し出してくれました。AX103S望遠鏡は焦点距離が825ミリと長いので、冷却CCDカメラと組み合わせればこうした春の銀河の撮影も楽しむことが出来ます。
AX103Sの星像と周辺減光
実写画像を用いて、AX103Sの実力をもう少し検証してみましょう。上に載せた球状星団の撮影画像の中心部と四隅の画像を下に掲載しました。四隅と中央に載せた四角内の画像は、ピクセル等倍の画像になっています。このピクセル等倍画像を見ると、端まで綺麗な星像を保っていることがわかります。AX103Sに装備されたフィールドコレクターレンズの効果が十分に発揮されているといえるでしょう。
ところでキャノンEOSKissDXカメラは、APS-Cサイズの撮像素子が用いられたデジタル一眼レフカメラです。最近は35ミリフルサイズカメラが数多く登場しているので、よりワイドに撮影できるようになっています。広い撮影視野を得られるのは魅力ですが、光学系にとっては求められる性能が増します。そこで、同じフルサイズのチップを持つSTL11000M冷却CCDカメラを用いて、AX103Sの星像を確認してみました。それが下の画像です。
テスト用に光害地で撮影した画像ですので、特に目立つ天体は写っていませんが、星の様子と周辺減光の様子がよくわかります。さすがにフルサイズとなると、最周辺部は暗くなっていて光量が減少していることが見て取れます。この中心部と周辺部をピクセル等倍で載せたのが下の画像です。周辺の星像が若干変形していますが、それほど大きなものではありません。周辺光量の落ち込みは若干気になりますが、フルサイズでも十分使える望遠鏡という印象を得ました。もちろんAPS-Cサイズのデジカメなら、全面にわたってシャープな星像が得られると思います。
最後に、ST11000Mカメラを使って撮影したフラットフレームを下に掲載しました。これを見ると、中心からある部分までは光量が均質ですが、一番隅になると一気に光量が減っているのがわかります。AX103Sにフルサイズのデジカメを使ったときの周辺減光の参考になれば幸いです。なお、画像に写っている薄暗い影は、撮像素子の上に載ったゴミが写ってしまったものです。
実際に使って気が付いた点
ほんの短い間でしたが、ビクセンAX103Sをお借りして天体を試写する機会に恵まれました。ここでは、AX103Sを写真撮影に実際に使ってみて、いくつか気がついた点をお伝えします。
所有しているビクセンED103SとAX103Sを並べて恒星や惑星を観望すると、AX103Sの方がより色収差が少ないことに気づきました。また、AX103Sにはフィールドコレクターレンズが入っているので、視野の隅でも星の形はほとんど崩れません。視野内の恒星は隅までピンポイントで、高級アイピースを使っているような使い心地でした。
ビクセンの撮影システム構成図によれば、AX103Sを直焦点撮影に使う時には、フリップミラーの後ろにデジカメを取り付けるように紹介されています。しかしこの組み合わせで撮影すると、フリップミラー内の開口径が十分でないため、ケラレが生じてしまいます。せっかくフラットフィールドを楽しめる望遠鏡ですので、専用のアタッチメントを新たに販売して欲しいところです。なお、上の写真撮影では、他社製のアダプターを介して撮影を行いました。フリップミラーの後ろにSTL11000Mカメラを取り付けてフラットフレームを撮影すると、下のような少しけられた画像になります。
フィールドコレクターレンズを標準装備し、フォトビジュアルタイプとして開発されたAX103Sですが、口径比がF8と暗いのが撮影時のネックになります。 光学系の明るさがF8ですから、十分滑らかな画像を得ようとすると、非常に長い露出時間が必要となります。実際上のST2000XMの画像も、合計で2時間弱という露出時間をかけましたが、まだ若干の露出不足が感じられます。開発中の専用レデューサーの登場が待ち遠しいところです。
F8と暗いですが、フィールドコレクターレンズのお陰で、焦点距離825ミリの撮影が楽しめるのは魅力です。春の銀河をはじめとした小さな天体も大きく写し出すことができ、レデューサーが発売されれば多目的に使うことが出来ます。また、今回は試写できませんでしたが、月面撮影にも優れた性能を発揮できるのではないかと思っています。
以上、いくつか気がついた点を書きましたが、AX103Sはビクセンが自信を持って市場に送り出した高性能屈折望遠鏡です。現在は口径10センチのモデルだけですが、これからラインナップを増やしていってくれることでしょう。専用レデューサーが未発売なのが残念ですが、これが発売されればデジカメ天体写真ファンにも魅力的な天体望遠鏡になるでしょう。これからの充実が楽しみなビクセンAX103S望遠鏡でした。
※このレビューテストは2009年4月に行っています。発売モデルとは若干異なる場合があります。