ビクセンED81SⅡ望遠鏡の実写テスト
ビクセンの天体望遠鏡は、天体観測入門者からベテランまで幅広い層に人気があります。 望遠鏡のラインナップの中でも、対物レンズに特殊低分散ガラス(SDガラス)を使った屈折望遠鏡のシリーズは、 価格と性能のバランスが良く、特に天体撮影を始めてみようという入門者の方に人気があります。 今回は、このシリーズの中で天体撮影に人気の高いED81SⅡ鏡筒を使って天体撮影を行い、 その実力を探ってみました。
ビクセンED81Ⅱ鏡筒について
ビクセンのED81SⅡ鏡筒は、口径81mm、焦点距離625mm(F7.7)のアポクロマート屈折望遠鏡です。 本体のみの重さは2.3キロと軽く、手軽に持ち運びできる大きさで、鏡筒バンドには取っ手も付属しています
ED81SⅡを使って星雲や星団を撮影する際は、レデューサーレンズを使用します。 ビクセンからは、純正オプションとして、ED(F7.7用)レデューサーが用意されています。 この純正レデューサーを使用すると、焦点距離が625mmから419mmに短くなり、 光学系のF値も7.7から5.2へと明るくなるので、暗い天体も撮影しやすくなります。
今回の実写テストでは、純正のレデューサーではなく、 笠井トレーディングから発売されている、ED屈折用0.8xレデューサーを使用しました。 笠井トレーディングのレデューサーを使用すると、ED81SⅡは焦点距離が500mm、F値は6.2前後となります。 ビクセンのレデューサーはドロチューブにねじ込んで固定しますが、 笠井トレーディングのレデューサーは、右上画像のようにTリングを使ってデジタル一眼レフカメラに接続し、 望遠鏡の2インチスリーブに差し込んで使用します。 純正に比べるとF値はやや暗くなりますが、汎用性が高いので、他社製屈折望遠鏡にも使用できる利点があります。
ところで今回テストしたビクセンED81SⅡは、ED81S鏡筒の後継機です。 新旧モデルでは、光学系には変更はありませんが、 鏡筒バンドを固定しているアリガタ金具(スライドバーM)の形状が異なっています。 今回の実写テストでは、ED81SⅡの鏡筒バンドを固定しているスライドバーを取り外し、 協栄産業オリジナルの汎用アリミゾプレートDXを使用して赤道儀に固定しました。
オートガイドシステムについて
赤道儀の追尾状況を監視するオートガイドシステムには、K-ASTEC Q5L-100GSS アルカセットを使用しました。
このセットには、オートガイダーとして定評のあるQHYCCD社のQHY5IL-IIM小型カメラと、
コーワの焦点距離100mmのCマウントレンズ、それらを固定するための専用バンドとフード、
アルカスイス規格のプレートとクランプが付属しています。
右上は、このオートガイドシステムをビクセンED81SⅡに載せたところです。
写真をご覧いただければわかる通り、非常にコンパクトなオートガイドシステムになっています。
ビクセンED81SⅡとの接続方法は、まず鏡筒バンドに取り付けられた取っ手を外し、
そこにK-ASTEC ビクセン純正バンド用トッププレート TTP40-190を取り付け、
K-Astecのアルカスイス規格のクランプを取り付けています。
なお、QHYCCD社のQHY5IL-IIMカメラはUSBカメラですので、このオートガイドシステムを動かすには、パソコンが必要です。
今回は小型のノートパソコンを使用し、PHDGuidingを使ってオートガイド撮影を行いました。
実際の撮影
上記の機材を郊外に持ち出し、夏の星雲を撮影しました。 撮影に使用したカメラは、天文用冷却デジタル一眼レフカメラのAstro60Dで、 赤い星雲を強調するため、アイダス社のHEUIB-IIフィルターをEOS-MFA アダプターを用いてカメラマウント内に装着しています。 赤道儀はビクセンのSXD赤道儀を使用しています。
撮影対象には、はくちょう座で輝く網状星雲を選びました。 下は、カメラの感度をISO1600に設定し、露出時間600秒で撮影した画像です。 画像処理は行っておらず、液晶モニターに映し出されたままの画像です。
撮影に使用したHEUIB-IIフィルターの効果もあるかもしれませんが、目立つような周辺減光は発生していません。 これならフラット補正を施さなくても良さそうです。 次に、この画像の各部分における星像を、画像を拡大して確認してみましょう。
上が撮影画像の各ポイントでのピクセル等倍画像です。 細かく見ると、四隅で若干星の流れ方が異なっていますが、隅までほぼ真円を保っていると言えるでしょう。 色収差も目立たず、画面全体で星像がほぼ均一に保たれていることがわかります。
下は、画像処理後の網状星雲の写真です。 同じ条件で2枚連続撮影した画像をコンポジットした後、 トーンカーブでコントラストを高め、若干色彩も強調しています。 周辺減光は目立たなかったので、フラット補正は行っていません。
撮影時は黄砂の影響もある透明度の悪い夜空でしたが、HEUIB-IIフィルターの効果もあって、 星雲をコントラストよく浮かび上がらせることが出来ました。 前回のレビューで、HEUIB-IIフィルターとアイダスLPS-D1フィルターとの比較テストを行いましたが、 HEUIB-IIフィルターは、赤い星雲の撮影に使いやすいという印象を改めて受けました。
まとめ
ビクセンED81SⅡと笠井トレーディングのED屈折用0.8xレデューサーを使用した今回の天体撮影では、 まず四隅まで星像が均一であることに良い印象を持ちました。 また、撮影画像の周辺減光が少ない点も好印象でした。
一方、純正レデューサーと比べて、F値が暗いのがこの補正レンズの弱点と言えそうです。 F値が約6.2と最近の光学系の中では少々暗いので、天体を明瞭に写し出すために、ISO1600で10分間の露出が必要でした。 しかし、天体撮影を始めたばかりの方にとって、フラット補正(周辺減光補正)は大変面倒です。 フラット補正の処理を省くことが出来るのは、この組み合わせの魅力と言えるでしょう。
K-Astecの小型オートガイドシステムは、銀塩フィルム時代のオートガイダーを知っている世代にとっては不安になってしまうほど小さなシステムですが、 今回の撮影では十分に機能を果たしてくれました。 ビクセンED81SⅡのコンパクトな鏡筒と相まって、軽量でかつ使いやすい直焦点撮影システムになっています。 長焦点撮影の場合を除き、今後はこのようなガイドシステムが主流になっていくのかもしれません。
今回のテスト撮影を通じて、ビクセンED81SⅡの天体写真適正を改めて確認することが出来ました。 500ミリという焦点距離は、夏や冬の夜空に輝く星雲や星団の撮影に使いやすい焦点距離です。 これから天体撮影を本格的に始めたいと考えている方や、 今まで300ミリ前後の望遠レンズで撮影してきた方のステップアップ機材として、 お勧めできる組み合わせだと思います。