Lacerta M-GEN オートガイダーのインプレッション
Lacerta M-GENオートガイダーは、高感度のソニー製モノクロCCDチップを用いたスタンドアローン型のオートガイダーです。 今回、M-GENオートガイダーを使用して天体を撮影する機会を得ましたので、 機器の概要と操作方法をご紹介しながら、オートガイダーの使用感や性能をまとめました。
M-GEN オートガイダーの外観と概要
M-GENオートガイダーは、ハンドコントローラーとガイドカメラで構成されています。 その他に、ハンドコントローラーとガイドカメラを繋ぐケーブル、 コントローラーと赤道儀を接続するオートガイドケーブル、そしてDC12V用電源ケーブルが付属しています。
初めてM-GENオートガイダーを手にしたとき、コンパクトで軽量という印象をまず持ちました。 ハンドコントローラーに設けられたファンクションボタンは、 十字に配置された矢印ボタンとESCボタン、それにSETボタンというシンプルな構成です。 高機能なコントローラーと比べると、若干物足りなく感じられるかもしれません。
ハンドコントローラーの底部には、上写真のように、各種ケーブルを接続するコネクタが設けられています。 左から「デジタル一眼レフカメラのシャッターを制御するためのカメラジャック」、 「ガイドカメラ用コネクタ」、「電源ジャック」、「オートガイドケーブルを接続するコネクタ」、 そして「パソコンを繋ぐためのUSBコネクタ」です。 コネクタの端子形状がそれぞれ異なっていますので、暗闇でも接続を間違える心配はないでしょう。
ガイド状況を監視するCCDは、円柱形をしたガイドカメラ内に固定されています。 CCDには、ピクセルサイズが4.85×4.65(μm)のソニー製「ICX276AL-E」CCDチップが用いられています。 総画素数は約43万画素と少ないですが、オートガイドの用途には十分な画素数です。 実際、テスト撮影中、画素数が少ないために困ることはありませんでした。
ガイドカメラの内側には、Tネジが切られています。 今回はminiBORG50をガイド鏡として使用しましたので、 望遠鏡接眼部に取り付けられた「M57→M36.4アダプター(7522)」のTネジ部分にガイドカメラを直接ねじ込みました。
シンプルなインターフェース
M-GENオートガイダーの全ての機能は、ハンドコントローラーに設けられた液晶モニターに表示されます。 液晶モニターは、128×64ドットと解像度は低いですが、 オレンジ色の表示の視認性は良好で、暗闇で眩しすぎることもありませんでした。
ESCキーを押してM-GENオートガイダーを起動すると、ファームウェアの表示とファイル名の設定に続いて、 メインメニューが表示されます。 メインメニューは、「Exposure」、「Guiding」、「Random Displacement」の3つのサブメニューに大きく分けられています。 また、3つのサブメニューの他に、各種設定を行う「misc」と電源を切るための「Power Off」が設けられています。 以下、3つのサブメニューの機能について、ご紹介します。
「Exposure」は、デジタル一眼レフカメラの長時間露出を制御する機能です。 露出時間とインターバルの間隔、撮影枚数を設定することができ、 タイマーリモートコントローラーと同様の操作が可能です。 また、ミラーアップに対応したデジタル一眼レフカメラを接続すれば、 ミラーアップした後の連続撮影にも対応できます。 なお、M-GENオートガイダーとの接続ケーブル(別売)が用意されているのは、 キヤノン製とニコン製のデジタル一眼レフカメラとなっています。
「Guiding」メニューでは、オートガイド全般の操作を行います。 Guidingは、M-GENオートガイダーの要となる機能で、 ガイド鏡のピント合わせに使用するライブビューをはじめ、赤緯・赤経の反応係数の変更など、様々な設定が可能です。 パソコンを使用したオートガイダーで設定可能な機能は、ほぼ全て網羅されています。 ここでは、基本的なオートガイドの操作方法をご紹介します。
「Guiding」メニューに入ると、下の画面が現れます。 まずGuider Setupで、使用するガイド鏡の焦点距離と赤道儀の修正速度を設定します。 設定内容は、一度入力すれば本体に記憶されるので、同じガイド鏡と赤道儀を用いる場合は再設定する必要はありません。
続いてLive View画面で、CCDチップに映っている星を表示させて、ガイド鏡のピントを合わせます。 星が暗くて見づらい場合は、露出時間(exp)を延ばすとよいでしょう。 ゲイン(gain)を上げるとカメラの感度が上がりますが、 同時にノイズが増えて画面が見づらくなりますのでご注意ください。
ガイド鏡のピントが合ったら、StarSearchを実施します。 StarSearchでは、CCDチップ上に写っている星を画面に表示し、自動的に明るい星をガイド星として選んでくれます。 ガイド鏡の視野内にオートガイドに使用できる明るい星がない場合は「No Stars」と表示されますので、 露出時間を変更して再度実施してみましょう。
ガイド星が見つかったら、オートガイド画面へ移りましょう。 Current guidingを選択してオートガイドの設定画面を表示し、キャリブレーションを行います。 キャリブレーションはマニュアルでも可能ですが、自動で行うのが簡単でお勧めです。 キャリブレーション中は、コントローラーの矢印ボタンのLEDが光り、補正信号を赤道儀に伝達中であることがわかります。 キャリブレーションが成功したら、オートガイドを開始しましょう。
下は実際のオートガイド中の画面です。 画面左の枠の中に、ガイド星が表示されています。 画面右上には、露出時間(exp)等の各種設定情報が表示されています。 「AG Stop」という部分にカーソルを合わせてSetボタンを押すと、オートガイドを停止することができます。
なお、Current guidingは、5つの画面に分かれています。 画面右下の「pg 1/5」という部分にカーソルを移動してページをめくると、 キャリブレーション設定画面やオートガイドの反応係数を設定する画面に移動します。 また、ガイド星が表示されている枠の部分もガイドエラーの状況を示すグラフに変更することが可能です。
最後に、メインメニューの「Random Displacement」をご紹介します。 この機能を使用するには、ハンドコントローラーとデジタル一眼レフカメラを接続して、 「Exposure」機能を使ってシャッターを制御する必要があります。
「Random Displacement」を使用すると、一コマ撮影が終わるごとにガイド星を若干移動させてから、 新たな位置でオートガイドを実行します。 具体的には、撮影画像ごとに数ピクセル程度、構図をずらして撮影していくイメージです。 デジカメのノイズは同じピクセルに発生しやすいため、 この機能を使用することによって、最終的に画像をコンポジットした際のノイズを平均化することができます。
M-GENオートガイダーでオートガイド撮影
M-GENオートガイダーを郊外に持ち出し、実際にオートガイド撮影に使用してみました。 今回使用した機材は、焦点距離350mmの天体望遠鏡とAstro60Dデジタル一眼レフカメラ、ビクセンSXP赤道儀です。 M-GENオートガイダーのガイド鏡には、miniBORG50を使用しました。
撮影テストではオートガイドの動作をまず確認しました。 デジカメの感度をISO1600、露出時間480秒に設定して、位置の異なる天体を20枚程度撮影しましたが、 ガイド補正信号は赤道儀に的確に伝達され、写った星に流れはありませんでした。
次に、M-GENオートガイダーに使われているCCDチップの感度を確認しました。 パソコンを必要とするオートガイダー(QHY5L-Ⅱ等)に比べ、スタンドアローン型のオートガイダーは一般的に感度が低く、 ガイド星を探すため、撮影対象ごとにガイド鏡の方向を調整する必要があります。 しかし、M-GENオートガイダーには、感度の高いソニー製モノクロCCDが使われているため、 ガイド鏡を固定した状態でガイド星が見つかるか、位置の異なる天体を撮影することで検証してみました。
まず、秋から冬の天体として、 カリフォルニア星雲、すばる、オリオン大星雲、M78星雲、バラ星雲、わし星雲を撮影しました。 上が今回撮影した写真の一覧です。 どの対象も天の川銀河に近く、周囲にたくさんの星がありますが、 短時間露出でも数多くの星がライブビューで表示され、CCD感度の高さを感じることができました。 最終的に、M-GENオートガイダーの露出時間を0.5秒(500ms)に設定し、オートガイド撮影を行いました。 どの天体を撮影する場合でも、ガイド鏡固定で問題なくガイド星を見つけることができました。
次に周囲の星が少なく、ガイド星が見つかりにくい春の銀河として、 M81銀河とM82銀河、しし座の三銀河、ソンブレロ銀河を撮影しました。 こちらは、露出時間0.5秒ではガイド星が見つからない対象があったため、 露出時間を1秒(1000ms)に延ばしたところ、全ての対象でガイド鏡固定でガイド星が見つかりました。
M-GENオートガイダーで設定できる最大の露出時間、4秒(4000ms)です。 上記の撮影テストの結果から考えて、miniBORG50程度の集光力のある天体望遠鏡をガイド鏡に使用すれば、 ガイド鏡を固定した状態で、ほぼ全ての対象でガイド星を見つけることができると思われます。
M-GENオートガイダーの印象
M-GENオートガイダーを使用した印象や、上記で触れなかった内容を以下に箇条書きで列挙しました。
・実地テストでは、焦点距離350ミリという短めの撮影鏡筒を使用したので、後日、 ヘラクレス赤道儀にTOA130望遠鏡(焦点距離約700mm)とminiBORG50ガイド鏡を載せて、M-GENオートガイダーのテストを実施した。 300秒露出で4枚撮影したが、撮影結果は良好であったので、 700mm程度の焦点距離の撮影にも使用できる精度があると考えられる。
・オートガイドの設定画面では、ガイド信号の反応係数等を赤緯・赤経独自に設定することが可能。 赤経のみの一軸ガイドにも対応しているので、オートガイド対応のポータブル赤道儀にも使用できるとのこと。
・オートガイダーに用いられているCCDの感度が高いので、ガイド鏡固定でガイド星が見つか点は大変便利。 スタンドアローン型なので、ノートパソコンが不要であるのも利点。
・コントローラーの液晶画面が小さく、スターブックTENなどの高機能コントローラーと比べるとやや見劣りがする。 また、カメラのゲインを大きくしすぎると、フォーカス画面にノイズが映し出され、 ガイド星が判別しづらくなる点は残念。
・制御ソフトウェアをパソコンにインストール後、コントローラーとパソコンをUSBケーブルで接続すれば、 パソコンからでも操作可能。
・液晶画面が小さい分、消費電力が極めて小さい。 電源確保が難しい郊外で使用する場合は大変ありがたい。
・撮影ごとにピクセルをずらす「Random Displacement」は、 コンポジット後の画像のクオリティを上げるのに有効な機能。 デジタル一眼レフカメラを制御する「Exposure」機能と組み合わせれば、 撮影終了までオートガイダー任せで撮影することができる。
まとめ
今回のテスト撮影を通じて、Lacerta M-GENオートガイダーは、シンプルなコントローラーながら、 反応係数の設定やガイド状況のグラフ表示など、 ベテランでも満足できる機能が盛り込まれたスタンドアローン型オートガイダーであるという印象を受けました。
また、ガイド用CCDのチップの感度の高さも特筆すべき点です。 ガイドマウントを使用してガイド星を探していた方にとって、 その作業から解放されるだけでも、このオートガイダーを導入するメリットがあるのではないでしょうか。
撮影地にパソコンを持ち出したくないユーザーや、 これからオートガイド撮影を始めてみようと考えている方にも、 選択肢の一つとしてお勧めできるオートガイダーだと思います。
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※KYOEI追記このレビューは、M-GENの販売検討のため2015年1月に実施したテストレポートをそのまま記事としたものです。コントローラ液晶画面の解像度が低いため、ライブビューにおいて星とノイズの判別がしにくく、ガイド星のピント合わせにややコツが必要なことがわかりました。また、その点さえクリアすればオートガイダーとしての性能は非常に高いこともわかりました。
→そこで、、、
ガイド星のピント合わせなど初期の導入に戸惑わない「GSSセット」をご用意させて頂いております。ガイド鏡には距離指標とピントロックねじを備えたコーワ製のCマウントレンズを採用し、セットごとに取扱説明書でピント位置の目安も明示しましたのでセッティングが容易です。
AP-WM追尾撮影スターターセットとMGEN-75GSSアルカセットを使ったテストレポートです!