KYOEIオリジナル AP-WM追尾撮影スターターセットのインプレッション
「KYOEIオリジナル AP-WM追尾撮影スターターセット」は、 ビクセンAP赤道儀に、天体撮影に必要なパーツを組み合わせたセットです。 今回、このスターターセットに、小型オートガイダーの「MGEN-75GSSアルカセット」を組み合わせて天体撮影を行う機会を得ましたので、 AP赤道儀の追尾精度やスターターセットの概略を交えながら、機材の使用感をまとめました。
ビクセンAP赤道儀と、KYOEI AP-WM追尾撮影スターターセットについて
AP-WM追尾撮影スターターセットは、天体写真撮影に必要なパーツを組み合わせた、KYOEIのオリジナル商品です。 ビクセンAP赤道儀本体に加えて、天体撮影に必要な赤経・赤緯の両軸モーター、 APP-TL130三脚、極軸望遠鏡、それにアリガタプレート等が付属しています。 あとはオートガイダーさえ用意すれば、天体望遠鏡や望遠レンズを載せてオートガイド撮影を行うことができるセットになっています。
ビクセンAP赤道儀は、2014年末に発売開始されたモデルです。 モジュール構造が採用されているのが特徴で、ユーザーが目的に合わせて必要なパーツを組み合わせ、 様々なパターンで使用することができます。
セットに付属する極軸望遠鏡は、ビクセン社の製品ではなく、KYOEIオリジナルとして発売されているK-Astec製です。 極軸望遠鏡の赤道儀への取り付けは、ユーザー自身で行います。極軸望遠鏡を赤道儀にねじ込んだ後、 付属のマニュアルに従って、赤道儀の回転軸と極軸望遠鏡のスケールの位置を合わせておきましょう。 なお、極軸望遠鏡のスケールパターンは、タカハシEM-11赤道儀と同様の、時角計算が必要なタイプです。 スマートフォンやタブレット用の極軸合わせ支援アプリを使うと、スムーズに極軸合わせを行うことができます。
AP赤道儀の使い心地
AP-WM追尾撮影スターターセットを使って、夏の星雲や星団を観望してみました。 まず、南天で輝くいて座の干潟星雲を視野に導入し、 次に付属のSTARBOOK ONEコントローラーを使って、三裂星雲、M17星雲、M16星雲を導入しました。 視野の移動には、主に恒星時60倍速を使用しましたが、 モーターの動きはスムーズで、快適に観望を楽しむことができました。
上位機種と異なり、AP赤道儀は自動導入機能には対応していません。 目標天体を視野に導入する際は、まずクランプフリーで天体望遠鏡の方向をおおよそ合わせ、 その後、STARBOOK ONEの方向キーを使って微調整します。 以前、レビューで使用したビクセンGP2赤道儀の場合は、最高で恒星時16倍速まででしたが、 AP赤道儀では恒星時60倍速で赤道儀をモーター駆動することができ、 目標天体の導入性能が向上しています。
AP赤道儀の電源には、単三乾電池4本、または、USB出力付外部電源を使用することができます。 今回の天体観望では、スマートフォン充電用のUSBモバイルバッテリーを使用しました。 赤道儀動作時の消費電流を、USB 簡易電圧・電流チェッカーを使って計測してみたところ、 恒星時追尾で 5V0.31A、恒星時60倍速で両軸モーターを同時駆動させている時でも 5V0.57Aと、 自動導入機能のある同社のSXP赤道儀(12V0.45~2.2A前後)に比べて省電力でした。
AP赤道儀の追尾精度
オートガイダーを使った天体撮影が主流になりましたが、 赤道儀の追尾精度は天体写真ファンにとって大変気になる点です。 そこでAP赤道儀のピリオディックモーションをウォームギア1周期分(約10分間)撮影し、 実測してみました。
撮影した結果は、上の画像の通りで、比較に用いた重星アルビレオの離隔(約35秒)から計算すると、 AP赤道儀のPEモーションは±12秒程度となります。 一般的にこのクラスの赤道儀では±15秒前後の場合が多いので、 このAP赤道儀のモーション量は標準的な基準をクリアしていると言えるでしょう。 ウォームホイルの他の部分でも実測してみましたが、いずれも同じような結果が得られました。
また、STARBOOK ONEコントローラーには、 ピリオディックモーションを学習させて電気的に動きを補正するPEC機能があります。 PEC機能を使うには、初めにウォームギア1周分のピリオディックモーションをコントローラーに記憶させる必要がありますが、 上手く使えば追尾精度をより向上させることができるでしょう。
※ピリオディックモーションとは:
赤道儀はギアで駆動しているため、ギアの機械的誤差で赤道儀が動く間にある程度の進み遅れが生じます。
これがピリオディックモーションという現象で、この進み遅れが小さいほど高精度な追尾が可能となります。
AP-WM追尾撮影スターターセットを使っての天体撮影
AP-WM追尾撮影スターターセットを郊外に持ち出して、実際に天体を撮影してみました。 使用した光学系は、天体写真ファンの間で評価の高いコーワのテレフォトレンズ「PROMINAR 500mmF5.6FL」です。 カメラは、キヤノンEOS6Dを冷却改造したAstro6Dを使い、鏡筒バンドの上に、 小型オートガイダーのMGEN-75GSSアルカセットを取り付けました。 下の写真はこれらの機材で撮影している様子ですが、赤道儀の極軸周りのバランスを取るためには、 スターターセットに含まれている1kgのバランスウェイトでは足りず、別途1.9キロのウェイトが必要でした。
今回のテスト撮影の対象には、天頂付近で輝く、はくちょう座の北アメリカ星雲を選びました。 まずK-ASTEC製の極軸望遠鏡を使用して極軸を合わせ、赤道儀の電源を入れた後、 クランプフリーにして、はくちょう座の一等星デネブを視野の中央に導入しました。 その後、STARBOOK ONEコントローラーを使って、赤道儀を恒星時30倍速で動かし、 北アメリカ星雲を視野内に導入しました。
構図を決めた後、オートガイド撮影を行うために、M-GENオートガイダーのキャリブレーションを実施しました。 キャリブレーション時の動作に問題はなく、一度でキャリブレーションを成功させることができました。 なお、MGEN-75GSSアルカセットのピントは、撮影前に自宅でピントを合わせて、 ピントリングをテープで固定しておきました。 M-GENコントローラーの液晶画面は階調数が少なく、ピンボケの画像は確認しづらいという問題があります。 現地でスムーズに撮影できるように、事前にアルカセットのピント合わせを行っておくのがよいでしょう。
下は、今回、撮影した画像です。 MGEN-75GSSアルカセットには、焦点距離が75ミリと短いレンズが付属していますが、 画像を拡大してもガイド流れは発生していません。 天候の関係で合計4枚しか撮影できませんでしたが、 ガイドミスは皆無で、この撮影システムの安定性を感じました。
なお、この北アメリカ星雲は、ダーク・フラット補正は行わず、コントラストを軽く調整しただけの画像です。 気温28度前後の撮影環境でしたが、Astro6Dには冷却ユニットが取り付けられており、 撮影画像にノイズは目立ちませんでした。
オートガイド撮影時の消費電流
Astro6Dの冷却ユニットの電源用としてはDC12Vのカーバッテリーを用意しましたが、 AP赤道儀とM-GENオートガイダーには、容量22400mAのUSBモバイルバッテリー1台から電気を供給しました。 観望時と同じように、オートガイド撮影時の消費電流を簡易USBテスターを使って計測してみました。
上の画像は撮影中の様子です。 左側にSTARBOOK ONEコントローラー、中央にUSBモバイルバッテリー、そして右側にM-GENのコントローラーが写っています。 モバイルバッテリーに取り付けたUSB簡易電圧・電流チェッカーの表示をご覧いただくと、 AP赤道儀で0.32A、M-GENオートガイダーで0.25A消費していることがわかります。 どちらも消費電流が非常に少なく、モバイルバッテリー1台で一晩中使用することが可能でした。
今回の観望や撮影で気づいた点
AP-WM追尾撮影スターターセットを使用して気付いた点を、以下にまとめました。
・ビクセンAP赤道儀は、フリーストップの使い勝手を重視していますが、 クランプを締めると見た目以上にしっかり固定され、今回のような機材を載せてもガタは発生しませんでした。
・AP赤道儀の赤緯軸周りは、極軸と比べるとクランプフリーの動きがやや固く、軽い機材を載せている時は、 鏡筒の前後の微妙なバランスが取りにくいと感じました。
・STARBOOK ONEコントローラーには自動導入機能はありませんが、その分操作がシンプルで、 初めての使用でもすぐに操作に慣れることができました。 また、目的天体の導入には恒星時60倍速、写真の構図合わせには恒星時30倍速の利用が便利でした。
・AP赤道儀には自動導入機能がありませんので、赤緯・赤経軸に、 ファインダーでは見えない暗い天体を導入する際に便利な目盛環を装備してほしいと思いました。
・APP-TL130三脚は、縮めた時の長さが60センチ弱と短いので車のトランクにも入れやすく、 また、AP赤道儀を載せるには十分な強度があり、使い勝手の良いバランスのとれた製品だと感じました。
・MGEN-75GSSアルカセットは、焦点距離が短いにも関わらず、問題なく350ミリのオートガイド撮影を行うことができました。 小型軽量のオートガイダーは、AP赤道儀にも使いやすい大きさだと感じました。
・USBモバイルバッテリーを赤道儀やオートガイダーの電源として使用できるのは大変便利でした。 消費電力のテスト結果を考えると、今回使用したUSBバッテリーであれば、2晩は持ちそうです。
まとめ
今回、AP-WM追尾撮影スターターセットを使った天体観望と撮影を通じて、ビクセンAP赤道儀の使い勝手の良さを確認できました。 軽量でコンパクトな赤道儀は、ちょっとした機会でも気軽に天体観望してみようという気にさせてくれるでしょう。 また、赤道儀の電源として、広く流通しているUSBモバイルバッテリーが使える点も便利です。
天体撮影では、本格的な天体撮影にも使用されているコーワテレフォトレンズと、 重い冷却ユニットが取り付けられたAstro6Dを使いましたが、ガイドエラーも発生せず、 この組み合わせで十分撮影を行えるという印象を持ちました。 機材をセットアップした外観も安定感が感じられ、デザイン的にもバランスの良い組み合わせだと思いました。
最近、ベテラン天文ファンを中心に、海外遠征用の機材として、 小型軽量で信頼性の高い二軸モーター付赤道儀の要望が高まっていますが、 このAP-WM追尾撮影スターターセットは、理想的な組み合わせの一つになり得ると感じました。 これから本格的に天体写真を始めようという方の最初の赤道儀セットとしてはもちろん、 ベテランの方のサブ機材としてもお薦めの一台だと思います。