アイダスNBZフィルターの使用感

アイダスNBZフィルターの使用感

アイダス ネビュラブースターNBZ(以下、「NBZフィルター」)は、OIII輝線とHα輝線を透過するデュアルナローバンドフィルターです。NBZフィルターは、同社のLPSシリーズ、HEIUB-IIフィルターと共に、天体撮影用として人気があります。今回は、上記フィルターとの比較画像を交えながら、NBZフィルターの使用感を確認してみました。


デュアルナローバンドフィルターとは?

銀河や恒星は連続光で輝いていますが、輝線星雲や惑星状星雲は、ある特定の波長の光を発して輝いています。天体によって多少異なりますが、輝線星雲はHα光(656nm付近の光)を発するものが多く、惑星状星雲は、OIII(波長500nm付近の光)やHαの光で輝く天体が多くなっています。デュアルナローバンドフィルターは、これらの天体が発するOIIIとHα、2つの波長の光だけを通すように設計されたフィルターです。


上は、NBZフィルターの特性図です。OIIIとHαの部分だけ透過率が突出しており、その他の波長の光の透過率は、ほぼゼロになっています。

この特性から推測できるように、撮影時にNBZフィルターを使用すると、星雲が発する光以外の光は通さないため、背景部分が暗くなり、星雲のコントラストを上げることができます。

下画像は、クリアフィルターとNBZフィルターを使って、冷却カラーCMOSカメラで撮影した、らせん星雲の写真です。撮影条件や画像処理は同じですが、クリアフィルター使用画像と比較すると、NBZフィルターの画像は星雲のコントラストが際立っており、フィルターの効果がよく感じられます。

上記のように、デュアルナローバンドフィルターは、連続光で輝く銀河の撮影には不向きですが、特定の波長の光で輝く星雲をはっきり写したい時には、大きな効果が感じられるフィルターです。


光害カットフィルターとEUIB-IIフィルター

光害カットフィルターは、その名の通り、光害の基となる波長の光だけをカットするように設計されたフィルターです。以前は、水銀灯が発する光を主にブロックする設計でしたが、最近は、LED照明が増えてきたこともあり、LEDによる光害にも対応したLPS-D2が登場しました。更に、LEDに加えて大気光にも対応したLPS-D3も登場しています。

HEUIB-IIフィルターは、Hα光で輝く輝線星雲のコントラストを強調するフィルターです。下に特性曲線を掲載しましたが、HEUIB-IIフィルターは600nm~650nmの波長の光をカットし、Hα光に
該当する波長の光のみを効率よく透過する設計になっています。

HEUIB-IIフィルターは一旦生産が終了していましたが、ユーザーからの復刻希望の声に応え、2021年9月に生産が再開されました。赤い星雲の描写に定評のあるフィルターの再生産は、天文ファンにとって嬉しいニュースですね。


都会でのフィルター効果の比較

2等星がやっと見えるくらいの都会の夜空で、はくちょう座の網状星雲を撮り比べて、アイダス社のLPS-D3HEUIB-IINBZフィルターの効果の違いを比較しました。撮影には、焦点距離200ミリの望遠レンズと、冷却CMOSカメラ ZWO社ASI2600MCPを使用しました。撮影は同条件で行い、撮影後は星雲を確認しやすいようにカラーバランス等は微調整しましたが、周辺減光等はそのままです。

上が、撮影後の画像です。クリアフィルター使用時の画像は、中央部が明るく、光害の影響で周辺減光が目立ち、星雲も背景に埋もれています。

LPS-D3を使用すると、フィルターの光害カットの効果により周辺減光が目立たなくなり、星雲もクリアフィルターに比べて写し出されています。

HEUIB-II使用時は、クリアフィルターに比べると若干背景が暗くなり、周辺減光も緩和されていますが、LPS-D3使用時に比べると光害カットの効果はやや弱いように感じます。しかし、網状星雲の赤い部分の写りは良好で、Hα光で輝く輝線星雲のコントラスト効果が感じられます。

NBZ使用時は、さすがデュアルナローバンドフィルターだけあって、網状星雲の淡い部分まで写し出され、星雲のコントラストも良好です。星がほとんど見えない都会の夜空でも、星雲がここまで写し出されたことに驚きました。

今回の結果から、光害カットの効果を考えると、LPS-D3HEUIB-II>クリアフィルターという順番になりそうです。


郊外地でのフィルター効果の比較

次に、天の川が見える郊外で、比較撮影を行いました。撮影に用いた機材は、都会での撮影と全く同じですが、空の暗さに合わせて露光時間を300秒に伸ばしました。画像処理は、星雲を確認しやすい程度にコントラスト強調だけ行っています。

上が、撮影後の画像です。光害の影響が少ないため、クリアフィルター使用時の画像でも周辺減光は目立たず、網状星雲の明るい部分がよく写っています。

LPS-D3を使用すると、背景が暗くなるので全体のコントラストが向上し、クリアフィルター使用時に比べ、写し出された網状星雲が明るく感じられます。

HEUIB-IIを使用した場合は、背景はLPS-D3ほどには暗くならないため、星雲のコントラストはやや弱く感じられますが、網状星雲の赤い部分の写りは良好です。特性曲線通り、赤い星雲を強調するのに適したフィルターと言えそうです。

NBZ使用時の画像では、網状星雲の明るい部分だけでなく、周囲に広がる淡いガス部分まで写し出されています。背景も黒く引き締まり、周辺減光もそれほど目立たないため、フラット補正も必要ないほどです。都会だけではなく、郊外地でも効果を発揮するフィルターと言えそうです。


ゴーストが発生しにくいNBZフィルター

デュアルバンドやシングルバンドのナローバンドフィルターは、ディープな天体撮影に欠かせないアイテムになりつつありますが、通す光の波長の幅が広いブロードバンドフィルター(IR-Cutフィルター等)に比べ、輝星にハロやゴーストが発生しやすいという欠点があります。


上は、他社製のナローバンドフィルター(Hαフィルター)で撮影したオリオン座三ツ星付近のモノクロ写真です。明るい星の周りに大きなハロが発生しているのがわかります。

一方、下は、セレストロンRASA8にNBZフィルターを取り付けて撮影した、はくちょう座の星雲の写真です。


写野中央に明るく写っているのは、2等星のはくちょう座γ星サドルです。星雲やハロを確認しやすいように強調処理した画像ですが、星の周りにハロはほとんど感じられません。
※輝星の上下に表れている光線は、望遠鏡の筒先に取り付けたケーブルによる回折光です。

NBZフィルターを製造しているアイダス社は、「フィルター単体の繰り返し反射を低減させることにより、先行販売していたNBXよりもNBZは低ハロになった」と発表していますが、上記の結果からもNBZフィルターはハロが出にくいフィルターと言えるでしょう。


電視観望にも適したNBZフィルター

電視観望は、都会の空でも天体観望をモニター越しに楽しめるとあって、徐々に人気が高まっています。NBZフィルターは、この電視観望際にも効果を発揮します。

上は、都会の空の下、電視観望で捉えた北アメリカ星雲の比較画像です。左から、フィルター無し、アイダス社のHEUIB-IIフィルター、同社のNBZフィルターを使って、都会で電子観望した際の画面キャプチャー画像です。NBZフィルターを使うと、他の2つの場合に比べて、星雲の形が一目瞭然です。

北アメリカ星雲だけではなく、惑星状星雲やその他の天体を電子観望した際にも大きな違いが感じられ、NBZフィルターは、電視観望にも有効なフィルターだと感じました。

さらに、星空の綺麗な場所でも電子観望してみたところ、都会での電子観望時と同様、NBZフィルターを使うと、上の比較画像の通り、背景と星雲コントラストが上がり、ペリカン星雲の姿がはっきりと映し出されました。


撮影後の印象

今回、NBZフィルターを天体撮影に使用して感じたことを以下に箇条書きでまとめました。

2等星がやっと見える都会の夜空でも、NBZフィルターを使えば、淡い星雲がはっきり写し出されたことに驚いた。

解像度の面では、モノクロ冷却CMOSカメラと各種ナローバンドフィルターを使ってカラー化した写真には及ばないが、カラーCMOSカメラとNBZフィルターを使えば、短時間でカラーのナローバンド画像を得られる点は魅力的だ。天候が不安定なときでも撮影を楽しめる組み合わせだろう。

NBZフィルターのテスト撮影には、望遠レンズや望遠鏡を使用したが、色収差が大きな屈折望遠鏡を用いると、HαとOIIIで最適なピント位置が異なるため、色ズレしたように写ってしまうことがあった。セレストロンRASA8のような、色収差が少なく、明るい光学系と組み合わせて使うのが理想的だろう。

他社製の半値幅7nmクラスのナローバンドに比べ、NBZフィルターの半値幅は約12nmで、半値幅が広い設計になっている。一般的に、半値幅が狭いほど、星雲のコントラストの向上が見込めるが、露光時間が長くなるというデメリットがある。12nmという半値幅は、星雲の描写と露光時間のバランスがよく、初心者でも使いやすいフィルターだと感じた。

半値幅が広めで恒星もある程度写るため、ブロードバンドフィルターで別途撮影した星だけの画像との合成も不自然にならないと感じた。

ナローバンド撮影では輝星のハロに悩まされることが多いため、NBZフィルターの低ハロ性能には大きな魅力を感じる。これなら明るい星を気にせず、構図撮りができると感じた。


まとめ

今回、NBZフィルターを使用してみて、デュアルバンドフィルターと冷却カラーCMOSカメラの組み合わせは、通常のシングルバンドのナローバンドフィルターと異なり、一度にHαとOIIIの画像を得られるため、天候が不安定な時でも効率的にカラー写真を得ることができて、とても魅力的に感じました。

また、LPS-D3フィルターやHEUIB-IIフィルターとの比較でも、NBZフィルターは光害カットの効果が大きいため、都会での撮影時にも星雲をコントラストよく、画面に浮かび上がらせることができました。都会での天体撮影時には、光害カットフィルターのLPSシリーズに加え、NBZフィルターも用意しておくと、撮影対象が広がり、更に楽しめるでしょう。

天体写真のベテランにとっては、NBZの低ハロ特性は大変魅力的に感じるのではないでしょうか。輝星に大きなハロやゴーストが発生してしまうと、ブロードバンド写真と合成して一枚の作品に仕上げる際に、星の周りがどうしても不自然な仕上がりになってしまいます。その点、NBZはハロの発生が少ないので、自然な感じに仕上げることができます。また、ツイン撮影システムのメインやサブ機用としても魅力的なフィルターだと感じました。

今回撮影に使用した、NBZフィルターと冷却カラーCMOSカメラの組み合わせは、肩肘張らずにナローバンド画像を得ることができ、撮影時間が限られる遠征撮影派にとっては、とても魅力的な組み合わせだと思います。NBZフィルターを追加して、気軽にナローバンド撮影を楽しんでみてはいかがでしょうか。

電子観望にチャレンジ


レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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