ビクセン SD81SIIのインプレッション
天文入門者にも人気の高いビクセンSD81Sが、2021年10月にリニューアルされ、SD81SIIになりました。完成度が高まったSD81SIIを実写に用い、使用感を確認してみました。
なお、SD81SIIは、前モデルであるSD81Sの対物レンズのスペーサーを変更したマイナーチェンジモデルですので、レンズスペーサー交換を行ったSD81Sを使ってテストを行いました。
SD81Sとの違いは対物レンズのスペーサー
屈折式天体望遠鏡の対物レンズには、2枚の性質の異なるレンズが用いられており、この2枚のレンズの間に、スペーサーとして錫箔が挟まれています。
前モデルのSD81Sには、錫箔の小切片がレンズ外周部に3枚配置されていました。この小切片は、下画像のように対物レンズ有効径内に飛び出していたため、レンズに光が入射すると、回折により星像の周囲に放射状の欠けが生じました。
リニューアルされたSD81SIIでは、3枚の小切片がリング形状のスペーサーに変更され、対物レンズを遮らないように改善されました。
上画像は、リング形状スペーサーに交換後のレンズです。対物レンズへの飛び出しが無くなり、レンズがすっきりしているのがわかります。
実写で感じた星像の違い
リング形状スペーサーの効果を調べるため、SD81SIIを郊外に持ち出し、冷却CMOSカメラを使って実写テストを行いました。
下は、はくちょう座γ星付近を写した写真の比較画像です。
前モデルのSD81S(右側)では、輝星の周囲に放射状の欠けが発生しています。一方、リング形状スペーサーに変更されたSD81SIIでは、星の周りに欠けは発生しておらず、星像が改善されていることが確認できます。
SD81SIIで天体撮影
SD81SIIとZWO社の冷却CMOSカメラ ASI2600MCProを使用して、夏の天体、干潟星雲付近を撮影しました。なお、SD81SIIには、天体撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用しています。
上は撮影画像を、ステライメージ9で画像処理して仕上げた写真です。天候が不安定だったため、十分な露光時間を取ることができませんでしたが(8分露出×4枚)、干潟星雲だけでなく、猫の手と呼ばれる淡い星雲の色合いもよく写っています。
干潟星雲を部分拡大してみると、星雲のディテール描写も良好で、口径8センチとは思えない解像感を感じました。
写し出された明るい星にも回折による欠けは発生しておらず、星雲の周りの暗い星々もスッキリと綺麗に感じます。
タカハシFC-76DCUと比較して
ビクセンSD81SIIと並んで天文入門者に人気の高い望遠鏡が、タカハシFC-76DCUです。対物レンズがSDレンズかフローライトレンズかという違いはありますが、どちらも口径約8センチで、持ち運びしやすいため、購入時によく比較検討される望遠鏡です。
そこで、SD81SIIとタカハシFC-76DCUの2本を赤道儀に同架し、恒星像を確認してみました。
高倍率で焦点像のシャープさを比較したところ、ほとんど違いは感じられません。色収差についても、両鏡筒共によく補正されており、色づきはほとんど感じられませんでした。
次に、月を望遠鏡の視野に入れてみました。色収差の大きな望遠鏡では、月の欠け際が色づいて見えますが、どちらの望遠鏡も色づきは感じられず、スッキリとシャープな月面観望を楽しめました。
倍率を上げると、口径の大きいSD81SIIの方がやや視界が明るく感じられましたが、それほど大きな違いではないでしょう。
オプションではSD81SIIが有利か
FC-76DCUは鏡筒バンドが別売りですが、SD81SIIには鏡筒バンドやアリガタ金具だけでなく、金属製キャリーハンドルも付属しています。鏡筒さえ購入すれば架台に搭載することができる点は、購入検討時の大きなポイントでしょう。
接眼部については、FC-76DCUは1.25インチ専用タイプですが、SD81SIIは2インチにも対応しており、市販されている様々なアイピースを使用することができます。また、観望に便利なフリップミラーも標準付属しています。
天体観望時に使用するファインダーとしては、FC-76DCUには6倍30mmの光学式ファンダーが付属しています。一方、SD81SIIには、XYスポットファインダーIIが付属していますが、光学式ファインダーに比べて若干見辛い点が残念です。
天体撮影については、FC-76DCU、SD81SII共に、光学性能に優れたフラットナー、レデューサーと呼ばれる補正レンズがオプション設定されていますが、FC-76DCUのレデューサーはAPS-Cサイズまでしか対応していません。
一方、SD81SIIのレデューサーHDは、35ミリフルサイズまで対応していますので、35ミリフォーマットで撮影する場合には、SD81SIIの方が適しています。
まとめ
今回のテストを通じて、SD81SIIは完成度の高い望遠鏡であることを確認できました。
天体写真時の星像をご紹介しましたが、眼視時にも星像の周りのジフラクションリングの欠けがなくなり、前モデルに比べて星像に不自然さがなくなりました。
今回のリニューアルによって、SD81SIIは、天体観測から本格的な天体撮影まで、幅広く使える望遠鏡になったと言えると思います。ビクセンの81S鏡筒シリーズの終着点とも呼べるSD81SIIで、様々な楽しみ方を試してみてはいかがでしょうか。