極軸合わせの方法

極軸合わせの方法

赤道儀を使う際は、極軸合わせという作業が必要です。極軸合わせの方法としては、極軸望遠鏡を使って合わせる方法がよく知られていますが、その他にも昔から様々な方法が考え出されています。その中から広く知られたメジャーな方法を幾つかご紹介します。



極軸合わせとは

星は、毎日、東から昇って西に沈みます。これは地球が自転しているために起こる現象で、日周運動と呼ばれています。日周運動の中心は北極星の方向にあり、星はあたかも北極星を中心に回転しているように見えます。



赤道儀には、日周運動と同じように動く回転軸(赤経軸)があり、この回転軸の中心と日周運動の軸を平行に合わせることによって、星を正確に追いかけることができます。この2つの軸を平行に合わせることを「極軸合わせ」と呼んでいます。

なお、北極星は、ほぼ真北に見えますが、正確には天の北極から僅かにずれています。天体撮影時など、極軸を正確に合わせたいときは、そのズレも考慮して合わせる必要があります。



極軸望遠鏡を使う方法

極軸望遠鏡は、赤道儀に内蔵された小さな望遠鏡です。一般的に赤道儀の赤経の回転軸を貫通するように設置されており、この望遠鏡を覗いて北極星を視野に入れ、極軸を合わせます。

極軸望遠鏡には、北極星の導入位置を示すスケールパターンが示されています。上述の通り、北極星は天の北極から僅かに外れていますので、視野の中心ではなく、スケールパターンが示す場所に北極星を導入します。

上は、ビクセンSX赤道儀用の極軸望遠鏡PF-LIIのスケールパターンです。北極星とその近隣の星2つを使って合わせるタイプです。他にも様々なスケールパターンの極軸望遠鏡があります。
なお、複数の星を使って合わせるPF-LIIの場合、架台の水平出しは不要ですが、北極星だけを使うタイプの場合は、架台を水平に設置してから行う必要があります。


ポールマスターを使う方法


ポールマスターは、CMOSセンサーが内蔵された、とても小さな電子望遠鏡で、光学望遠鏡の極軸望遠鏡の代わりとして使うことができます。

使い方は、まず、アダプターを使用して、ポールマスターを赤道儀に固定します。その後、ポールマスターとパソコンをUSBケーブルで繋ぎ、ポールマスター専用のアプリケーションを起動させます。アプリケーション画面に表示される指示に従って、赤道儀を動かしていくと、北極星を導入するべき位置(円)が表示されます。赤道儀の方位と高度ネジを動かして、その円の中に北極星を入れれば、極軸合わせが完了です。

ポールマスターにはパソコンが必要になりますが、極軸望遠鏡が内蔵されていない赤道儀でも簡単かつ正確に極軸を合わせられるので、天体写真ファンに人気があります。


3点アライメント方法

極軸望遠鏡やポールマスターを使用する方法では、北極星が見えない場合は、極軸を合わせることができません。そのような場合には、3点アライメント方法による極軸合わせが便利です。以下、その手順をご紹介しましょう。
まず、方位磁針などを使って、赤道儀の極軸をおおよそ北の方向に向けます。架台のモードを「極軸の合っていない赤道儀」に設定し、3点アライメントを行って、天体を正確に導入できるようにします。

次に、望遠鏡の視野中央に任意の明るい星を基準星として自動導入し、その星でアライメントを行い、自動導入した時にその星が視野の中央に来るようにします(天頂付近の星は基準星として使えないため、選ばないようにしてください)。

架台のモードを「極軸の合った赤道儀」に変更し、先ほどの星を自動導入すると、視野中央にあった基準星が動きますので、赤道儀架台の方位と高度の調整ネジだけを使って、再び視野の中心に導入しなおします。これで、極軸はおおよそ合います。

3点アライメント方法は、1998年発売のビクセンのスカイセンサー2000PCのマニュアルに手順が紹介され、広く知られるようになりました。現在のビクセンの赤道儀に付属しているSTARBOOK TENやワイヤレスユニットは、赤道儀の動作モードを切り替えた時点で星の位置が補正されるため、3点アライメント方法は使えないようですが、知識として知っておくとよいと思います。


プレートソルビングを使った方法

プレートソルビングとは、撮影した星空の画像が、天球上のどの位置を写したものであるかを割り出す機能です。プレートソルバーと呼ばれるプレートソルビング用のソフトウェアが画像と星図を解析し、撮影した天体の位置(赤経と赤緯)を探し当てて表示します。

プレートソルビング機能は、アストロアーツ社のステラショットや、ZWO社のASIAIR、N.I.N.A、APTをはじめ、多くの天体撮影用アプリケーションに実装されており、天体撮影の標準的な機能となっています。

先ほどご紹介した3点アライメント方法を、肉眼の代わりにカメラで撮影した画像を使って行うイメージを想像していただければと思います。

天体写真ファンによく利用されているNINAでは、Three Point Polar Alignmentを実行すると、基準星を撮影後、プレートソルビングにより星の位置が解析され、3点アライメントにより極軸のズレ量がパソコン画面上に表示されます(上画像参照)。ユーザーは、そのズレ量を参考に赤道儀の方位と高度調整ネジを動かして、極軸を合わせます。



星のズレを見て合わせる方法(ドリフト法)

星のズレを見ながら合わせる方法もあります。極軸を全く合わせていない状態からでも可能ですが、ズレ量が大きいと時間がかかるので、上記でご紹介した3点アライメント方法を行った後に実施すると、簡単に極軸を追い込むことができ、便利です。

まず、南の空の南中少し前の星を視野の中心に入れ、赤道儀の追尾を一旦停止します。その後、再び赤経モーターだけを動かし、先ほどの星を視野の中央に戻します。そのとき、星が北方向にずれていれば、赤道儀の極軸が西にずれているということなので、東に微調整します。


同様に、赤道儀の高度も合わせます。北東の空の星を視野の中心に入れた後、赤道儀の追尾を一旦止め、その後、再び赤経モーターを動かして星の位置を確認します。星が北にずれていれば、赤道儀の高度が高すぎるということなので、低く微調整します。

3点アライメント方法やプレートソルビングを使った方法を実施した後に、このように星のズレを確認して、極軸を微調整すれば、極軸を更に正確に合わせることができます。


最後に

極軸合わせの代表的な方法をご紹介しました。最も手軽で簡単なのは、極軸望遠鏡を使った方法ですが、最近は極軸望遠鏡が付属していない赤道儀も増えています。そのような赤道儀を使う時や、北極星が見えない場合は、是非他の極軸合わせの方法を試してみて下さい。



レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

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