タカハシTPLアイピースのインプレッション
2023年7月、高橋製作所からTPLアイピースが発売開始されました。従来のAbbeアイピースの後継機として開発されたモデルで、見かけ視界約50度のスタンダードタイプです。
タカハシ TPLアイピース |
アイピースとは
アイピースとは、天体望遠鏡の接眼部に取り付ける接眼レンズのことです。アイピースには焦点距離が定められており、天体望遠鏡の焦点距離をアイピースの焦点距離で割り算することによって、望遠鏡の倍率が定まります。例えば、口径10cmで焦点距離1000mmの望遠鏡に、焦点距離10mmのアイピースを用いると、100倍の倍率が得られます。
焦点距離が同じアイピースでも、内部に使われているレンズの種類や枚数は様々で、レンズ構成によって視界の広さや見え方が異なります。そのため、目的や好みに合わせて適したアイピースを選ぶことが大切です。
星空観望用なら、視界が広いアイピースが一度に星空を見渡しやすく適しています。眼鏡をかけている方には、アイレリーフが長いモデルが覗きやすくてお勧めです。一方、惑星や二重星の観望なら、中心像のシャープさが重要ですので、視野が50度ぐらいの標準タイプのアイピースが適しています。
今回ご紹介するTPLアイピースは、見かけ視野が48度で、標準タイプに分類されるアイピースです。もちろん、星雲星団の観望にも使用できないことはありませんが、惑星や月面クレーター、二重星の観望に適したアイピースと言えるでしょう。
なお、惑星用アイピースには、エルンスト・カール・アッベが発明したと言われる、オルソスコピックタイプ(オルソ)のアイピースが良く使用されています。現在は、オルソの中でも、アッベが提唱したレンズ構成のものをアッベタイプ、1群と2群に同じレンズ構成を用いたものをプローセルタイプと呼び分けることが多くなりました。
TPLアイピースの特徴
TPLアイピースは、プローセルタイプのアイピースです。光学系には2群4枚のレンズが用いられ、見かけ視界は48度に統一されています。2024年4月現在、焦点距離6mm、9mm、12.5mm、18mm、25mm、33mm、50mmの7種類がラインナップされています。
惑星観望用のアイピースとして、高橋製作所はレンズ4枚構成のAbbeシリーズを販売していました。Abbeシリーズは、従来のタカハシOrアイピースをリニューアルしたモデルで、一定の評価を得ていましたが、少し前に生産が終了し、後継機の登場が待ち望まれていたところです。
待望の後継機となったTPLアイピースは、中心部の色収差がAbbeシリーズの約半分、また、タカハシLEアイピースの約2/3とメーカーはアナウンスしています。上図は視野中心のスポットダイアグラムの比較画像ですが、確かにAbbeシリーズやLEアイピースに比べて色収差が少なく、星像がより中心部分に収束していることがわかります。
アイピースの外観
TPLアイピースは、タカハシロゴ入りのブルーの箱に入っています。箱は補正レンズなどと同様の箱で、アイピースを入れるプラスチックケースさえも付属していないシンプルなものですが、高橋製作所らしいと言えばらしい梱包です。
アイピースの外観は、TPLとブルーで印字されている以外は、ごく普通の国産アイピースと言う印象を持ちました。ただ持つと適度な重さが感じられ、特に高級感を感じるデザインではありませんが、基本に忠実に作られた製品であることが感じられます。
アイピースに取り付けられているゴミ見口も丁寧なつくりで、ユーザーが覗きやすい形に接眼部が作られています。アイピース内部の艶消し塗装も上質で、像のコントラスト向上に一役買っています。
また、個人的に31.7mmバレル部分に抜け止めの溝がないことにも好感を持ちました。アイピースのバレル部分に溝があると、望遠鏡接眼部の形状によっては、アイピースを締め付けられなかったり、中心からずれたりすることがあるので、溝はない方が使いやすいと思います。
恒星像の確認
TPLアイピースを使って、恒星像を確認しました。使用した望遠鏡はMewlon-250CRSとTOA130望遠鏡です。どちらも十分に外気になじませた上で、比較的気流の良い夜に観望しました。
まず最初に、アンドロメダ座α星のアルフェラッツを視野に入れました。ピントを合わせたとき、これまでのアイピースに比べて、恒星の周りのジフラクションリングがはっきり見えるように感じました。
試しに古いビクセンLVアイピースに交換してみると、ジフラクションリングの見え方が明らかに異なります。恒星像もぽってりとして、背景とのコントラストも悪くなり、TPLアイピースとの違いを感じました。
次に、タカハシLEアイピースに交換しました。LEアイピースも優秀なアイピースですが、ピントを合わせたときの恒星像の鋭さはTPLアイピースの方が優れていました。また、ジフラクションリングの第一円もTPLアイピースの方がよく見え、フォーカスが合ったときの鋭さの違いを感じました。特にTOA130との組み合わせで違いがよくわかりました。
アルフェラッツの次に、同じアンドロメダ座のアルマクを視野に導入しました。アルマクは美しい二重星として知られる星ですが、TPLアイピースで見ると、オレンジ色の主星の傍にエメラルドグリーン色の伴星が寄り添い、実に美しい眺めです。ジフラクションリングもはっきり見えて、シャープな星像で二重星の観察を楽しむことができました。
惑星を観望
TPLアイピースの性能を最大限に発揮できるのは、惑星の観望時でしょう。TOA130とMewlon-250CRSとTPLアイピースを使って、天頂で輝く木星を観望しました。
木星を視野に入れたとき、まず感じたのは「像が明るいな」ということです。縞模様のコントラストも良好で、赤道縞の乱れた様子もよくわかります。木星と背景の境目も暗く、宇宙に浮かんだ木星というイメージで見えました。
古いビクセンLVアイピースに交換して比べると、LVアイピースの像は背景が若干白っぽく、木星の周りもうっすらと明るく、コントラストが悪いと感じます。木星の模様のコントラストも低下しており、TPLアイピースと比べると見え方に大きな違いを感じました。
タカハシLEアイピースとも見比べました。LEアイピースもコントラストが高く、真っ暗な宇宙に浮かぶ木星というイメージで見えましたが、木星本体の明るさは、TPLの方がやや明るく見えるでしょうか。また、模様も、TPLアイピースの方が赤道縞の乱れた様子などがよく見える印象を受けました。特にTOA130との組み合わせの時に顕著で、TPLの方が像のシャープネスが高く感じました。
また惑星観望用として評判が高く、惜しくも生産終了になったビクセンHRシリーズのアイピースでも木星を見比べてみました。倍率は異なりますが、どちらもコントラストは良好で背景宇宙も真っ暗です。縞模様もよく見えますが、TPLアイピースの方が見かけ視野が広い分、視界が広く感じられました。評価の高いアイピースとの比較でも、TPLアイピースの性能の高さを感じました。
TPLアイピースのアイレリーフについて
アイレリーフとは、接眼レンズ最終面から全視野がケラレなく観察できる目の位置までの距離のことです。アイレリーフが長いと、接眼レンズから離れていても、全視野を見渡すことができます。
シャープで結像性能が高いTPLアイピースですが、アイレリーフは長くありません。最も高い倍率が得られるTPL-6mmでアイレリーフは4.5㎜、最も低い倍率のTPL-50mmで37mmです。
アイレリーフの短いTPL-6mmでは、全視野を見渡そうと思えば、ゴム見口に目を押し付けるようにして使用する必要があります。一般的に、眼鏡をかけて全視野を見渡すには、アイレリーフが15mm程度は必要と言われていますので、眼鏡をかけてTPL-6mmの全視野を見渡すのは難しいでしょう。
眼鏡が必要な場合は、アイレリーフ13mmのTPL-18mmに、高性能バローレンズ(タカハシ2×オルソバロー等)を組み合わせる方法もあります。販売店に相談しながらベストな組み合わせを選んでください。
まとめ
今回、発売されたTPLアイピースは非常に評判が高く、惑星観望に使うのを楽しみにしていました。実際に使ってみると、確かに評判通りの見え味で、Abbeアイピースをさらに進化させた光学性能という印象を受けました。
今まで様々なアイピースで惑星を見てきましたが、色が暖色系に転ぶことが多く、色の濁りが苦手な私には、不自然に感じることがありました。その点、タカハシのTPLアイピースの像はニュートラルで、一皮むけたような印象を受けました。
TPLアイピースは、現在購入できる惑星や二重星観望用のアイピースの中で、最も高い結像性能を持ったアイピースと言えるでしょう。是非、このアイピースで奥行きのある宇宙の姿をお楽しみください。