アイダスGNB フィルターの使用感

アイダスGNB フィルターの使用感

アイダス ネビュラブースターGNB(以下、「GNB フィルター」)は、新しいタイプのデュアルバンドフ ィルターです。GNBフィルターの大きな特色は、通常のデュアルバンドフィルターで透過する可視光域 の波長の光に加えて、近赤外光も透過する点です。今回は、このGNBフィルターを用いて都会で天体を 撮影し、フィルターの効果を確認してみました。


アイダス ネビュラーブースター GNB



GNB フィルターの特性

人間の目が感じることのできる光の波長は380nm~770nm程度で、可視光線と呼ばれています。一般的 に、天体撮影に使用されるフィルターは、この可視光線以外の波長の光をカットする設計になっていま すが、GNBフィルターは、780nm~900nmの波長の光(近赤外光)を透過する設計になっています。

可視光線の波長域に注目すると、GNBフィルターは、星雲が主に輝く波長(OIIIやHα)の光だけを透 す設計になっており、同社のデュアルバンドフィルターであるNB フィルターと同じ特性を持っていま す。つまり、GNB フィルターは、NB フィルターをベースに、近赤外域の光も透過するようにした新し いタイプのデュアルバンドフィルターと言えるでしょう。



近赤外光を通すメリット

天体撮影や電視観望にとって、都市部の光は、天体写真のクオリティを低下させる大きな要因です。昔 は、街灯に水銀灯が多く用いられていたので、水銀灯が発する特定の波長の光だけをカットすれば、光害 の影響を抑えることができました。しかし、現在は、可視光域全体にわたって発光するLEDが街灯に使 われるようになり、従来の光害カットフィルターでは、光害カットの効果を得られにくくなりました。

近赤外域の光に注目すると、銀河や恒星はこの波長域の光も発していますが、LED照明や蛍光灯は、こ の波長域の光はほとんど発していません。従って、近赤外域の光を透過するようにすれば、光害の影響は ほとんど受けずに銀河や恒星を撮影できることになります。 このように近赤外域の光を通すことで光害カットの効果を高めたのが、GNB フィルターです。GNB フ ィルターは、可視光域では光害に強いデュアルバンドフィルターの特性を持ち、連続光で輝く恒星や銀 河のために、光害の影響の極めて少ない近赤外域の光も利用できるように設計されています。



GNB フィルターに適したカメラ

GNB フィルターの性能を最大限に発揮するには、近赤外光の感度の高いセンサーを搭載したCMOS カ メラが必要です。ZWO社製カメラの中では、ASI664MCが近赤外域の受光感度(Relative Response) が比較的近赤外光の感度が高くなっています。

上は、ASI664MC カメラの特性グラフです。横軸は光の波長、縦軸は受光感度を表しており、受けた波 長の光に対して、カメラがどのぐらい反応するかを示しています。ASI664MC は近赤外域の830nm 付 近の光の受光感度が高いことがわかります。 ASI664MC の他に、新しく発売されたASI585MCPRO にも近赤外光の感度が比較的高いセンサーが使 われています。ASI585MCPRO は、センサーサイズが664MC より一回り大きく、冷却機構も付いてい るので、星雲や銀河を本格的に撮影したい方にお勧めのカメラです。



都会で系外銀河を撮影

GNB フィルターを使用して、春を代表する系外銀河、M51 子持ち銀河を撮影しました。使用した鏡筒 は、ビクセンVSD90SS 望遠鏡です。望遠鏡の接眼部に、GNB フィルターをねじ込んだASI664MC を 取り付けて撮影しました。

上は、露出時間300 秒で撮影した24 枚コマを、ステライメージ9 で重ね合わせて強調処理した画像で す。2等星がやっと見える都会の空での撮影ですが、伴銀河もしっかり写っており、銀河周囲に広がる淡 いハロも確認できます(周囲をトリミングしています)。 比較のために、天体撮影によく使用される、可視光だけを透過する光害カットフィルター、IDAS LPSD1 フィルターを使って、同じ機材で同じ対象を撮影したのが、下の写真です。

GNBフィルターと同じ露出時間では、画像が真っ白に飽和してしまったため、約半分の180秒で撮影し ました。ステライメージ9 で同程度のコントラストになるように画像処理しましたが、銀河の淡い部分 の描写はGNBフィルターを使った場合より劣っています。また、写りの悪い画像から強調したため、ノ イズ感も増し、色合いも濁ってしまいました。



星雲の撮影にも好印象

GNB フィルターは、Hα光とOIII 光を通すデュアルバンドフィルターのNB フィルターに、近赤外光 も透過するようにしたフィルターなので、星雲撮影用としても使用することができます。実際に、都会の 自宅で星雲を撮影してみました。

上は、GNB フィルターとASI664MC を使って撮影した、亜鈴状星雲の写真です。鏡筒は、FC-35 レデ ューサー0.66×を取り付けたタカハシFC-100DFを使用しました。 露出時間300秒で撮った画像を10枚重ね合わせて画像処理したものですが、亜鈴星雲の淡い広がりがよ く写っており、コントラストの高い画像を写し出すことができました。 星像が若干大きく感じられるのは、使用した望遠鏡の近赤外域の収差が表れた影響でしょう。同社の NBZIIフィルターに比べると、GNBフィルターの半値幅は少し広いものの、デュアルバンドフィルター としても使うことができる、汎用性の高いフィルターだと感じました。



望遠鏡とGNB フィルターの相性について

市販されている天体望遠鏡は、可視光線の波長の範囲で、色収差や球面収差が発生しないように設計さ れています。しかし、GNB フィルターは近赤外域の光も透過するため、天体望遠鏡の機種によっては、 焦点像が通常よりも甘くなる(ボケたように写る)場合があります。

上は、GNBフィルターを使用し、VSD90SSとFC-100DF(レデューサー使用)で撮影したM51の比較 写真です(1枚画像です)。VSD90SS に比べて、FC-100DF で撮影した方が、星像が大きく、全体的に ボンヤリとしていることがわかります。 可視光域では、両望遠鏡の差はほとんど感じられないので、近赤外域の収差補正の差が表れたのでしょ う。理想を言えば、近赤外域でも収差の少ない反射系の望遠鏡がGNBフィルターに適していると思いま す。



まとめ

都会の街灯がLEDに置き換わるにつれ、都市部の光害の影響はますます大きくなっています。そのよう な中、光害のある自宅でGNBフィルターを撮影に使用してみて、光害カットフィルターの新しい可能性 を感じることができました。 従来の可視光だけを透過する光害カットフィルターと比較すると、GNBフィルターは、可視光ではHα 光とOIII 光のみを通しつつ、近赤外域の光も利用するので、光害カット能力は非常に優秀です。実際、 両フィルターの撮影画像を比べてみると、背景の暗さが段違いでした。 また、NBZII 等のHα光とOIII 光だけを通すデュアルバンドフィルターと比べると、GNB フィルター では、星雲のコントラストは若干落ちるものの、連続光で輝く系外銀河などで自然な色合いを得ること ができます。近赤外域の光を使ってRGBカラーを得られるGNBフィルターの利点でしょう。 GNBフィルターは、近赤外域の光を通すため、光学系との相性の問題はあるものの、光害カットの効果 が高いだけではなく、デュアルバンドフィルターとしても使用することができ、汎用性の高いフィルタ ーだと感じました。天体撮影のフィルターワークを楽しんでいる方に、是非試していただきたいフィル ターの一つです。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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