AM5/AM3の比較
ZWO社から2022年春に発売されたAM5赤道儀(以下「AM5」)と、約1年後に発売されたAM3赤道儀(以下「AM3」)は、ともに力強いモーターを採用した波動型赤道儀として「小型なのに大きな望遠鏡を載せられる」「ASIAIRを使えて便利」と天体撮影ファンの注目を集めていますが、「AM5とAM3のどちらを買えばいいのか?」という声もよく聞きます。そこで、2つの赤道儀を比較し、それぞれの仕様の違いをご紹介したいと思います。
使用機材 | |
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仕様上の違い
まず、AM5とAM3のスペックを比べてみましょう。以下に、一覧表でスペックをまとめてみました。スペックが異なる箇所に、黄色マーカーを引いています。
AM5 | AM3 | |
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架台形式 | 赤道儀 | |
架台モード | 赤道儀モード/経緯台モード | |
駆動系 | ストレイン・ウェーブ・ギア(波動歯車装置)+シンクロナスベルト(減速比・300:1) | |
ピリオディックモーション | <±20″(周期:432秒) | <±20″(周期:288秒) |
赤経駆動 | NEMA42ステッピングモーター Model No.17(減速比・100:1)+ブレーキ |
NEMA35ステッピングモーター Model No.14(減速比・100:1)+ブレーキ |
赤緯駆動 | NEMA35ステッピングモーター Model No.17(減速比・100:1) |
NEMA35ステッピングモーター Model No.14 |
搭載重量 | 13kg(カウンターウェイト未使用時) 20kg(カウンターウェイト使用時) |
8kg(カウンターウェイト未使用時) 13kg(カウンターウェイト使用時) |
本体重量 | 5kg | 4kg |
緯度調整範囲 | 0°-90° | 0°-90° |
方位角調整範囲 | ±10° | ±10° |
アリミゾ規格 | ロスマンディ/ビクセン互換(デュアル式) | |
BWシャフト取付規格 | M12 | |
モーター解像度 | 0.17秒 | |
最大駆動スピード | 秒間6°(対恒星時1440倍速) | |
駆動速度 | 対恒星時:0.5×/1×/2×/4×/8×/20×/60×/720×/1440× | |
外部電源ポート | DCプラグ(外径:5.5φ-内径2.1φ)/入力:12V-3A | |
消費電力 | 12V-0.386A(スタンバイ時)/12V-0.58A(恒星時駆動時)/12V-1.5A(自動導入時) | 12V-0.386A(スタンバイ時)/12V-0.58A(恒星時駆動時)/12V-1.7A(自動導入時) |
オートガイド端子 | ST4互換(SSAG) | |
外部インターフェース | USB/Wi-Fi | |
ゼロポジション | 機械式 | |
適応温度(使用時) | -20゚C~50゚C | -15゚C~40゚C |
瞬電保護 | 有り |
ざっと見たところ、使用されている赤緯モーターは異なりますが、それ以外は、重さや大きさが違う程度のようです。以下、スペックが異なる点について、実際に使用した感想を交えながら、見ていきましょう。
赤道儀の大きさ
AM5かAM3を購入しようと思った際に、一番迷うのは大きさの違いでしょう。AM5とAM3のデザインは全く同じで、外観上のデザインの違いはほとんどありません。しかし、大きさはスペック表から想像した以上に異なっており、AM5に比べてAM3は一回り小さくなっています。
上は、AM5とAM3を並べた写真です。写真からも、AM5に比べてAM3が一回り小さいことがよくわかると思います。 ※AM5には自作のPoleMaster取り付けステーを固定しています。
次の画像は、望遠鏡を取り付けるアリミゾ金具方向から写した写真です。AM5のアリミゾ金具とAM3のアリミゾ金具を比べると、幅は同じですが、AM3のアリミゾ金具は長さが短く、コンパクトになっています。
赤道儀の重さ
他社製赤道儀と比較すると、AM5も決して重い架台ではありませんが、AM3の方が更に軽く感じます。
実測してみると、AM5が5.9キロのところAM3は4.15キロと、AM3は2キロほど軽くなっています。男性ならAM3は片手でも軽々持ち上げられるでしょう(但し、赤道儀に取っ手は付いていないので、落とさないように注意が必要)。
搭載可能重量の違い
バランスウェイト無しの場合、AM5は13キロ、AM3は8キロまでの機材を載せることができます。バランスウェイトを付ければ、AM5は20キロ、AM3は13キロまで搭載可能重量を増やすことができます。
何キロと言われてもイメージしにくいと思いますが、実際に使用した印象では、AM5ならビクセンR200SSのような口径20センチの反射望遠鏡でも搭載できる一方、AM3では厳しく、反射なら15センチ程度が限界でしょう。
屈折望遠鏡の場合は、AM5なら13~15センチクラスも搭載できますが、AM3は10センチクラスまでが無難だと思います。AM5なら10センチクラスを複数搭載することもできるでしょう。
ZWOの公式ページでは、赤道儀の性能アピールのためか、搭載重量の限界に近い大きな天体望遠鏡を載せていますが、鏡筒が大きくなると、重さだけでなくモーメントも大きくなりますので、実用では上記の大きさまでの機材が安心だと思います。
ASIAIRとの連携について
AM赤道儀シリーズの購入を検討されている方は、まず間違いなく、ASIAIRでの使用を考えていらっしゃると思います。
AM5とASIAIRの接続方法には、USBケーブルを使って有線で繋ぐ方法と、Wifiで接続する方法があります。AM3の場合には、これらに加えてBluetoothでの接続方法も追加されました。
Bluetoothでの接続は、コントローラーが不要になる点が便利です。接続方法が違うだけで、ASIAIRの操作や機能自体は全く同じですが、Bluetooth接続を使いたい場合は、AM3赤道儀を選ぶとよいでしょう。
追尾精度について
AM5とAM3を天体撮影に使用してみました。追尾精度に関しては、どちらの赤道儀も必要十分で、オートガイドのレスポンスも良好でした。追尾精度に関しては、どちらの赤道儀を選んでも、まず問題ない範囲に収まっていると思います。
上は、AM5にε-160EDを載せて撮影したM35散開星団の撮影画像です。追尾状況がわかるようにトリミングしていますが、星が点像に写っているのがわかります。
次は、AM3にFC-100DFを載せて撮影したM81の撮影画像です。こちらも同じようにトリミングしています。こちらの画像も星が点像に写っています。
使用した鏡筒は異なりますが、どちらの赤道儀も天体撮影に使用するのに必要十分な追尾精度やオートガイド適性を備えていると思います。その点は安心して大丈夫でしょう。
経緯台としても楽しめる
以上、天体撮影時の性能について紹介しましたが、AM5、AM3には、経緯台モードも搭載されています。経緯台として使用すれば、ハイパワーで高速回転も可能なモーターを使った天体観望も可能です。
上は、AM3に口径8センチの天体望遠鏡を載せ、経緯台モードで天体観望している様子です。ASIカメラとASIAIRを使えば、プレートソルビング機能も使用でき、これまで以上に正確に天体を視野内に導入することができます。
また、K-Astec社からは、コーワ ハイランダープロミナーをAM赤道儀に取り付けるアダプターが販売されています。このアダプターを使用すれば、上写真のようにAM赤道儀にハイランダーをしっかりと固定することができ、双眼での天体観望も楽しむことができます。観望用の架台としても魅力的な赤道儀と言えるでしょう。
まとめ
AM5とAM3のスペックを比較しましたが、モーターの精度や追尾精度に関してはほぼ同じ性能と言え、ユーザーが所有している機材の大きさに合わせて選ぶのが一番だと改めて感じました。
具体的には、口径20センチクラスの反射望遠鏡や口径13センチクラスの屈折望遠鏡に使うなら、AM5を選ぶ方が安心だと思います。一方、10センチクラスの屈折望遠鏡や13センチクラスの反射望遠鏡であれば、AM3が適しているでしょう。
また、荷物の制限が厳しい海外遠征には、AM3が最適だと思います。私も何度か海外に撮影に出かけていますが、AM3の大きさと重さは大変魅力的です。正直、AM5とAM3の2台ともあれば、操作感も同じで、メインとサブ機で撮影や観望を快適に楽しめるだろうと思うほどです。是非皆様もAM5やAM3で快適な撮影・観望を楽しんではいかがでしょうか。
レビュー著者
吉田 隆行氏 ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。