ASIAIRで楽しむデジカメ天体撮影 番外編
番外編
これまでASIAIRとデジカメを使った撮影方法についてご紹介してきましたが、天体撮影を 続けるうちに、「もっと綺麗に撮りたい」「天体をさらに大きく撮りたい」と感じるよう になってくると思います。今回は、ASIAIRを使ってより美しい写真を撮る方法と、機材の ステップアップについてご紹介します。
使用機材 | |||||||
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FL55SS鏡筒 |
レデューサーHD キット |
ZWO EAF |
撮影枚数を増やしてみよう
撮影した画像を画像処理ソフト(ステライメージ9など)で処理する際には、複数の画像 を重ね合わせ、その後コントラストを強調して星雲や銀河を浮かび上がらせます。コント ラストを強調するとノイズが目立つことがありますが、重ね合わせる画像の枚数を増やす ことで、画像の荒れが軽減されます。
前回の記事では、初めの一歩として5枚の撮影を推奨しましたが、撮影に慣れ、オートガイ ドが安定してきたら、10枚、20枚と枚数を増やしてみましょう。また、撮影対象によって は、一枚当たりの露出時間を調整するのも良い方法です。
ディザリングを使ってみよう
ディザリングは、天体撮影のテクニックの一つで、1枚撮影が終わるごとに構図を少しずら して次の露出を開始する手法です。画像を重ね合わせる際にノイズが目立たなくなるた め、多くのベテラン撮影者が取り入れている方法です。
ASIAIRを使えば、ディザリング撮影も簡単に行えます。オートガイドのマークをタップし て詳細設定画面(Guiding Advanced Settings)を開き、「ディザリング(Dither)」のスイッチを オンにするだけで、ディザリング撮影が可能になります。 ASIAIRでは、何枚ごとに構図をずらす(Interval)かなど、細かい設定も可能です。私の場合、 4枚ごとにディザリングするように設定していますが、いろいろな条件を試して、最適な設 定を見つけてみてください。
カメラレンズの絞り値を変更しよう
星の画像を拡大してみると、ピントをしっかり合わせたはずなのに、星像がどことなくぼ やけていたり、画像中央の星に比べて周囲の星が伸びて写っていることがあります。これ は、カメラレンズを絞り開放で撮影した際によく見られる現象です。
このような場合、絞り値を大きくする(レンズを絞る)ことで星像が改善されます。ただ し、天体は非常に暗いため、風景写真のように大きく絞り込むことは難しいです。F2.8の レンズであればF4前後、F4のレンズであればF5.6前後まで絞って撮影してみましょう。 レンズの絞り値を変更した際は、露出時間の調整を忘れないようにしましょう。露出時間 が長くなりすぎる場合は、ISO感度を変更することで対応できます。絞ることで星像が引 き締まり、周辺減光も軽減されるため、より美しく天体を撮影することができます。
望遠鏡へのステップアップ
カメラレンズの天体撮影に限界を感じたら、望遠鏡を使った天体撮影にステップアップさ れてみてはいかがでしょうか。
カメラレンズ(望遠レンズ)は、一般撮影から天体撮影まで幅広く楽しめる点が魅力で
す。しかし、多数のレンズを組み合わせているため、無限遠の対象に特化して作られた天
体望遠鏡に比べると、星像の鋭さやコントラストでは劣ることがあります。
性能比較として、ニコンの70-200㎜ F2.8レンズ(AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR
II)をF4まで絞って撮影したアンドロメダ大銀河の画像と、ビクセンのFL55SS(レデュー
サーHD付き)で撮影した画像を以下に掲載しました。
上の画像を見比べると、70-200㎜レンズで撮影したアンドロメダ銀河の写真では、中心部 に比べて周囲が暗くなっているのがわかります。一方、ビクセンFL55SSで撮影した画像 は、背景の明るさがほぼ均一で、周辺減光が少ないことがわかります。 さらに、画像の中心と右上部分を拡大して比較しました。
どちらも中心付近の星像は真円ですが、70-200㎜レンズで撮影した画像の最周辺部では、 星が放射状に流れて写っています。一方、FL55SSで撮影した画像は、中心部と比べて若干 星の形が崩れているものの、目立たず真円に近い状態を保っています。 一般写真撮影用として定評のある高価なレンズでも、無限遠の星を撮る能力では、高性能 な天体望遠鏡の方が優れていると改めて感じました。
望遠鏡を使うその他のメリット
天体望遠鏡への変更には、星像以外にもさまざまなメリットがあります。 まず、天体望遠鏡は鏡筒バンドを使って架台にしっかりと固定できるため、オートガイド の失敗が減少します。また、オートガイダーも鏡筒バンドの上に固定できるので、機材全 体の重量バランスが良くなります。
さらに、ZWO社の電動フォーカサーEAFを接眼部に取り付ければ、ASIAIRでオートフォー カス機能を利用できるようになります。 小さな天体を撮影する際には、500mm以上のレンズが必要になりますが、超望遠カメラレ ンズは非常に高価です。その点、天体望遠鏡なら500mm以上の焦点距離を持つものが多 く、比較的リーズナブルな価格で超望遠撮影を楽しめます。また、カメラレンズに比べ、 天体望遠鏡は長期間にわたって使用できるというメリットもあります。 このように、天体望遠鏡に移行することで、撮影の幅が広がり、より安定した高品質な写 真を撮影できるようになります。
天体望遠鏡のお勧め
カメラレンズからステップアップしたい方には、口径6センチ前後の天体望遠鏡が使いやす くておすすめです。特に、撮影用の補正レンズ(レデューサーレンズなど)が用意されて いる望遠鏡が適しています。ビクセンのFL55SSやタカハシのFS60CBなどがその代表で、こ のクラスの望遠鏡なら、大きさも望遠レンズとほぼ変わらないため、扱いやすいでしょう。
天体撮影に特化した望遠鏡(Askar FMA180proやウィリアムオプティクス RedCat 51など) もありますが、これらはどちらかというとベテラン天文ファンのサブ機として人気があり ます。初めて望遠鏡を使う方には、ビクセンFL55SSのように月面のクレーターや惑星の観 望も楽しめるタイプの天体望遠鏡を選ぶ方が、天文の世界を広く知ることができ、楽しめ ると思います。
最後に
今回は、天体撮影をさらに楽しむためのテクニックとして、ディザリングの活用や望遠鏡
へのステップアップについてご紹介しました。また、カメラレンズの絞り値を変更する方
法や、撮影枚数を増やすことで、より美しい天体写真を得るためのポイントについてもお
伝えしました。
これらのテクニックを参考にしていただき、ASIAIRを活用しながら、天体撮影をより深く
末永く楽しんでいただければ幸いです。
レビュー著者
吉田 隆行氏 ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。