初心者のための天体写真の画像処理ガイド 実践編(前処理)

実践編(前処理)
はじめに
導入編をお読みいただき、天体写真には画像処理が必要であること、またそのためには専用のソフトウェアが必要であり、処理の大まかな流れもご理解いただけたかと思います。
ここからは、カラー冷却CMOSカメラ「ASI2600MC Pro」で撮影した天体写真を使い、実際の画像処理を進めていきます。ステップごとに詳しく説明するので、初めての方でも同じように仕上げることができるはずです。なお、内容が長くなるため、「前処理」と「後処理」に分けて解説します。使用する画像処理ソフトは「ステライメージ9」です。
使用機材 | |
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ZWO ASI2600MC Pro | ステライメージ9 |
前処理編
前処理では、ダーク補正やフラット補正、スタッキング(コンポジット)処理を行います。これらの工程は、撮影時のノイズを除去し、より正確な画像を作るために欠かせません。
前処理は撮影者の意図がほとんど反映されない作業ですが、手順が多く、慣れないうちは戸惑うかもしれません。今回は「ステライメージ9」の画面を紹介しながら、一つずつの作業を丁寧に解説していきます(詳細編集モードを使用しています)。
画像処理の前準備
1. 撮影画像(ライトフレーム)
天体を撮影した画像です。今回は、馬頭星雲を天体望遠鏡と冷却CMOSカメラを使用し、露出時間360秒で8枚撮影しました。
2. ダーク画像(ダークフレーム)
ライトフレームのノイズ補正に使用する画像です。ライトフレームと同じ露出時間・ゲイン(感度)で撮影します。理想的には、ライトフレームと同じか、それ以上の枚数を用意します。今回は露出時間360秒のダークフレームを8枚撮影しました。
3. フラットフレーム
周辺減光を補正するための画像です。ライトフレームと異なる露出時間でも問題ありませんが、ゲインは同じにするのが理想的です。こちらも、ライトフレームと同じか、それ以上の枚数を用意します。今回は露出時間10秒のフラットフレームを8枚撮影しました。
4. フラットフレーム用のダーク画像(フラットダーク)
フラットフレームのノイズ補正に使用する画像です。フラットフレームと同じ露出時間・ゲインで撮影します。今回は露出時間10秒のフラットダークを8枚撮影しました。
これらの画像は同じフォルダにまとめておくと、ステライメージでの選択がスムーズになります。また、画像処理に慣れないうちは、どの画像がどの目的で必要なのかを紙にメモしておくと迷わず作業できるでしょう。
ダークフレームの作成
ライトフレームのダーク補正・フラット補正に使用するダークフレームを作成します。まずは、ライトフレーム補正用のダークフレームを作成しましょう。
1. ステライメージ9のツールバーから「バッチ」を開き、「コンポジット」を選択します。
2. ダイアログボックスが開いたら、「ファイルから追加」ボタンを押し、露出時間360秒のダーク画像を追加します。
3. 追加が完了したら「OK」を押し、ダイアログボックスにファイル一覧が表示されていることを確認します。
4. 位置合わせは不要なので、「基準点」のままでOKです。
5. コンポジットの設定を「加算平均」、ピクセル補間を「バイキュービック」に設定し、「コンポジット実行」ボタンを押します。
6. 処理が完了すると、新しい画像「New1.fts」が表示されます。
7. ツールバーの「ファイル」から「名前を付けて保存」を選び、適切な名前を付けて保存します。例:MasterDark_360sec_8com.fts(露出時間と枚数がわかるようにするのがおすすめです)
この手順をフラットフレーム用の露出時間10秒のダーク画像(フラットダーク)にも適用し、適切な名前(MasterDark_10sec_8com.fts等)で保存しておきましょう。これでダークフレームの作成が完了しました。
いよいよ後処理へ
ここまでで、撮影した画像の前処理が完了しました。次回からは、撮影画像に写っている星雲を明るく浮かび上がらせる後処理を行います。
前処理は最初のうちは手間に感じるかもしれませんが、慣れればスムーズに進められるようになります。また、ステライメージ9の「ダークライブラリ」機能を活用すれば、毎回ダークフレームを呼び出す手間を省くことも可能です。最初は面倒に感じるかもしれませんが、基本をしっかり押さえて取り組んでみてください。
レビュー著者
吉田 隆行氏 ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。