Central DS Astro6Dのインプレッション
Central DS Astro6Dは、キヤノンEOS6Dのフィルターを天体撮影用に換装し、 冷却機構を追加した35ミリフルサイズのデジタルカメラです。 今回、 Astro6D(Clearフィルター仕様)を使用して、実際に天体を撮影する機会を得ましたので、 カメラの印象や使用感をまとめてみました。
Astro6Dの概要
従来の冷却改造モデルと異なり、 Astro6Dではイメージセンサーをカメラボディから取り外し、 ボディ前面に取り付けた冷却ユニットの中にセンサーを固定しています。 放熱のためのヒートシンクが円形のため、一見、冷却CCDカメラのように見えるかもしれません。 カメラの底部には、着脱可能な外付クーラー「EXcooler」が固定されています。
標準仕様の Astro6Dは、EOSマウント仕様になっていますが、 付属のアダプターリングを使用すれば、Tネジ(M42)仕様の望遠鏡や、 M48ネジの鏡筒にも接続可能です。 また、アダプターリングの他にも、電圧変換モジュールや電源コードをはじめとするオプションが付属しています。 付属品の量が多くて戸惑うかもしれませんが、ユーザーの目的に合わせて、ベストな組み合わせを選択できるのは便利です。 また、後から必要な部品を買い足す必要もないでしょう。
Astro6Dのボディキャップを外すと、上の写真のように、35ミリフルサイズセンサーをクリアフィルタ越し見ることができます。 センサーはボディから取り外されているので、シャッターユニットは存在しません。 ミラーボックスがないため、センサー周囲は十分に広く、ケラレや周辺減光の影響を回避することができます。 大きなフルサイズセンサーは、高品質な天体画像を期待させてくれます。
Astro6Dを初めて手に持ったとき、ボディの大きさと共にずっしりとした重さを感じました。 EXcooler取付時の Astro6Dの重量は約1390gですので、約755gのEOS6Dボディの約2倍の重量になっています。 天体撮影時は、できるだけ接眼部がしっかりした天体望遠鏡に取り付けたいところです。
Astro6Dの冷却機構
Astro6Dの冷却は、冷却ユニット(TECクーラー)に入力する電圧によって、 「パッシブモード(Passive Cooling)」と「アクティブモード(Active Cooling)」の2種類のモードでの動作が可能です。
EXcoolerを使わず、付属の「DC4V電源変換コード冷却用(PS1204)」を用いて、 冷却ユニットに直接、電気を供給すると、 Astro6Dはパッシブモードで冷却されます。 パッシブモードでは、センサー温度は外気温に比べて約8度ほど下がります。 パッシブモードの消費電流は、約0.8A(DC12V)と大変小さく、 小型の電源でも使用可能な消費電流となっています。
一方、アクティブモードは、 Astro6Dの機能をフルに生かせる、より実践的なモードです。 冷却ユニットには、EXcoolerからDC8.5Vの電流が供給され、センサー温度を外気温から約18度下げます。 この時、EXcoolerは、放熱効果を高めるファンとしてだけではなく、電源集中管理ユニットとしても機能します。 EXcoolerにDC12Vの電源を入力すれば、冷却ユニットに必要なDC8.5Vに加えて、 EOS6Dボディのバッテリー電源DC8Vも得ることができます。
冷却の効果とノイズの比較
実際に Astro6Dをアクティブモードとパッシブモードで動作させ、 冷却ユニットの能力とノイズ発生量を比較検証しました。 なお、撮影条件は、外気温が約22度、撮影時の感度はISO1600、露出時間は600秒で統一し、 センサー温度の測定には、 Astro6D付属の温度計を用いました。
上の画像は、冷却OFF時と各モードでの冷却時の温度です。 一番左の冷却OFFの時と比べると、パッシブモードでは約10度センサー温度が下がっています。 EXcoolerを用いたアクティブモードの場合は、約20度下がり、センサー温度は2.4度になりました。 次に、各モード時のノイズ発生量を見てみましょう。
上の画像は、 Astro6Dで撮影したダークフレームのピクセル等倍画像です。 ノイズの発生量がわかりやすいように、元画像とレベル補正を使って強調した画像を各モードごとに並べました。 強調後の画像をご覧いただくと、冷却OFF時と比べ、パッシブ、アクティブモード共にノイズが少ないことがよくわかります。 また、パッシブモードとアクティブモードを比べると、アクティブモードの方がややノイズ発生量が少ないように感じられます。 キヤノンEOS6Dは、もともと長時間ノイズの少ないデジタル一眼レフカメラですが、 冷却ユニットの追加によって、より低ノイズのカメラになったことがわかります。
ミラーケラレと周辺減光
デジタル一眼レフカメラを使った天体撮影では、天体望遠鏡からの光がミラーボックス内で遮られ、 画像の片側が暗くなるミラーケラレという現象が起きます。 特にフルサイズセンサーは面積が大きいため、この現象が顕著ですが、 Astro6Dでは、センサーをボディから外し、前に持ってくるという大胆な改造を行ったことにより、 ミラーボックスによるケラレが発生しなくなりました。 実際にどの程度違うのか、EOS5DMarkIIで撮影したフラットフレーム画像と比較してみました。
上がフラットフレームの比較画像です。 フラットフレームの撮影には、タカハシε-180ED鏡筒を用い、 減光フィルムを貼ったELシートを鏡筒先にかざして撮影を行いました。 周辺減光の様子が分かりやすいように、ステライメージ7のレベル補正を用いて強調したモノクロ画像を表示しています。
画像を見比べると、右側のEOS5DMarkIIのフラット画像は、ミラーボックスのケラレにより、 上側と下側が黒くなってしまっていますが、 Astro6Dの画像ではそのような現象は見当たりません。 また、 Astro6Dの方が画像の中心から端の方に向かってなだらかに減光しており、全体的に周辺減光が少ないことがわかります。 センサーをミラーボックスから出したおかげでしょう。 天体写真の画像処理では、周辺減光の補正が重要なポイントですので、 この特性は天体写真の仕上げに有利に働きます。
また、 Astro6Dにはフィルターボックスが装備されています。 ドロップインタイプなので、カメラを光学系から外さずにフィルターを交換することが可能です。 フィルターボックスは、48ミリと52ミリのフィルターに対応しています。 径の大きなフィルターを使用できるので、周辺減光の点でも有利でしょう。
Astro6DとM-GENでオートガイド撮影
次に、 Astro6Dをフィールドに持ち出し、実際に天体を撮影してみました。 今回、使用した機材は、焦点距離500ミリのε-180ED望遠鏡とタカハシNJP赤道儀です。 追尾状況を監視するオートガイダーには、M-GENスーパーガイダーを用いました。 撮影対象は、北天で輝く秋の大型の散光星雲です。 赤い星雲をコントラスト良く捉えるため、 フィルター径52ミリのIDAS HEIUB-IIフィルターを Astro6Dのフィルターボックスに取り付けて撮影しました。 また、撮影時の現地の気温は約20度でした。
今回のテストで確認したかったのは、撮影時の Astro6Dの使い勝手です。 Astro6Dには光学ファインダーは使用できないため、ピントや構図はライブビュー機能を使って合わせました。 通常のデジタル一眼レフカメラを使う場合でも、天体撮影時には光学ファインダーは使用せず、 ライブビューで画像を確認するので、ファインダーが使えないという点は特に問題ではないでしょう。 カメラのシャッターは、M-GENスーパーガイダーのシャッターコントロールを使って切りました。
見た目は冷却CCDカメラのようですが、使用感としては、 通常のキヤノンEOSデジタルと同じ感覚で使用することができました。 また、カメラ本体の電源はTECクーラーから供給され、 DC12Vの電源を用意すれば、カメラ本体のバッテリー切れを心配することなく、 撮影を続けることができ、便利だと感じました。
上は、以上の組み合わせで撮影したカリフォルニア星雲の元画像(ISO1600で4分露出)です。 ダーク補正を行っていないにも関わらず、拡大画像でもノイズは感じられません。 また、ミラーボックスによるケラレも発生しておらず、滑らかな周辺減光です。
この元画像を仕上げたのが、下の完成画像です。 撮影画像の周辺減光を、薄明の空を利用したフラットフレームでフラット補正し、 4枚コンポジットした後にコントラスト強調処理を行いました。 合計撮影時間わずか16分の画像ですが、冷却による低ノイズのおかげで滑らかな仕上がりになりました。
Astro6Dの印象
Astro6Dを使用した印象や、上記で記載できなかった内容を箇条書きで列挙しました。
・ノイズが少ないことで定評のあるキヤノンEOS6Dカメラを冷却改造しているため、 Astro6Dの冷却ユニット動作時のノイズは非常に少なく、ダークフレーム減算処理も必要ないと思えるほどだった。
・従来の冷却改造と異なり、センサーを前に移動するという大きな構造変更をしているため、 レンズの絞り値の制御や機械式シャッターの使用はできない。 速いシャッターが切れないため、昼間の被写体を撮影をすることは難しく、 天体望遠鏡を使った直焦点撮影専用のデジタルカメラと言える。
・Astro60Dのファンと比べて、 Astro6Dに用いられているEXcoolerファンは非常に静かで、 動作時でもほとんど音が聞こえない。 消費電流も少ないので、容量の小さな電源でも使用可能だろう。
・EXcooler部分で撮影時に必要な電源を集中管理でき、この端子にDC12Vの主電源を入れると、 冷却装置とカメラ本体に電気を供給できる点は大変便利だと感じた。
・冷却ユニットはEOS6Dボディ本体にしっかり取り付けられていてガタなどは感じられず、 ボディの剛性が高い印象を受けた。 また、外観も一体感があり、冷却装置の外付け感はそれほど感じられない。
・ミラーボックスの影響によるケラレがなくなったので、周辺減光の発生が均一になり、 フラット補正を行いやすかった。また、フラットフレームを撮影しなくても、画像処理ソフトウェアのコマンドを使って、 ある程度の周辺減光補正が可能だった。
まとめ
今回のテスト撮影を通じて、 Astro6Dは、冷却機構を使った低ノイズ特性に加え、 センサーをミラーボックスから外した独自の構造により、より進化した天体撮影用の改造デジタルカメラになっているという 印象を受けました。
冷却機構による低ノイズ特性は、気温が高い夏場のノイズの発生を防いでくれます。 また、ミラーボックスのケラレを回避できるので、周辺減光補正を行いやすく、 強い画像処理にも耐えられます。 どちらも、高品質な天体写真を得る上で、重要な特性です。
カメラの一部の機能が使えなくなってしまった点は残念ですが、 Astro6Dは、天体撮影専用カメラとして、すぐれたカメラだと言えるでしょう。 ハイレベルな天体写真を目指すベテランや、 APS-Cサイズのデジタルカメラからステップアップする天体写真ファンにもお勧めできる天体撮影用カメラだと思います。