ビクセンSX2赤道儀WLリミテッドのインプレッション

ビクセンSX2赤道儀WLリミテッドのインプレッション

ビクセンSX2赤道儀WLは、自動導入機能搭載のワイヤレスユニット(WL)を付属した赤道儀です。ビクセンのラインナップの中では比較的廉価なモデルになりますが、SXD2と同じステッピングモーターを採用するなど、中身は本格的な仕様になっています。

このSX2赤道儀WL(以下「SX2赤道儀」)にKYOEI特別仕様を施したSX2赤道儀WLリミテッドが登場しました。望遠鏡取り付け部分を高剛性のヘッドに換装するなど、使いやすさを高めたモデルです。今回は、このSX2赤道儀WLリミテッド(以下「SX2リミテッド」)を使って天体観測や天体撮影を行い、そのポテンシャルを探ってみました。

SX2赤道儀について


SX2赤道儀は、以前販売されていたSX赤道儀(スフィンクス赤道儀)の後継機種として、2014年に発表されました。SX赤道儀は、天体ナビゲーション用のSTARBOOKを付属しており、天体観望ファンには一定の評価を得ていましたが、DCモーターを使っていたためパワーが不足しがちで、天体写真撮影には使いづらいという声もありました。

そこで、SX2赤道儀には、上位機種に用いられていたステッピングモーターを採用し、ベアリングの数もSX赤道儀の1個から5個に増やして、天体撮影にも使いやすいモデルに進化しました。

発売開始当初は、上位機種のSTARBOOK TENコントローラーではなくSTARBOOK ONEハンドコントローラー(上画像)が付属していたため、自動導入ができませんでした。しかし現在はSX2赤道儀にもワイヤレスユニット(WL)が付属し、上位機種と同じように、スマホのアプリから自動導入することができます。

SX2赤道儀とSX2リミテッドとの違い

SX2赤道儀とSX2リミテッドの大きな違いは、望遠鏡を取り付ける架頭部分です。


上は、架頭部分の比較写真です。左がSX2赤道儀で、右がSX2リミテッドです。SX2赤道儀の架頭にはアリガタプレートを受けるアリミゾ金具がありますが、SX2リミテッドの架頭にはありません。その代わり、プレートに、他社製のアリガタ金具などを固定できるネジ穴が切られており、ビクセン規格以外の他社製のアリミゾ金具も取り付けることができます。

下画像は、K-Astec製のアルカスイス/ビクセン規格両用のアリミゾDS38/45R-88をリミテッド仕様に取り付けたところです。アルカスイスとビクセン規格のどちらのアリガタも取り付けられる便利なアリミゾ金具で、SX2リミテッドの架頭はユーザーの幅広いニーズに対応できるようになっています。


また、SX2リミテッドの架頭は大径のボールベアリングを2個内蔵しており、強度や滑らかさの点でSX2赤道儀より優れています。実際に使ってみるとこの違いは大きく、赤緯方向のバランスをとりやすいなど、使い勝手も向上しています。

さらに、SX2リミテッドには、3.7キロと1.0キロの2種類のバランスウェイトと延長シャフトが付属しています。SX2赤道儀には1.9キロのバランスウェイトが一つ付属しているだけなので、望遠鏡を載せるにはウェイトを買い足す必要がありますが、SX2リミテッドでは、付属のウェイトと延長シャフトを組み合わせるだけで、軽い機材から重い機材まで搭載することができます。

なお、SX2赤道儀、SX2リミテッド共に、赤道儀の極軸を合わせるための極軸望遠鏡はオプション設定です。極軸合わせの方法はいくつかあるので、極軸合わせの方法のページをご覧いただき、やりやすい方法で合わせてください。今回は、KYOEIオリジナルの照明装置付極軸望遠鏡 AP/SX赤道儀用を使って極軸を合わせました。

SX2赤道儀の操作

SX2赤道儀の操作は、専用アプリ「STAR BOOK for Wireless Unit」をインストールしたスマートフォンやタブレット端末で行います。


まず、SX2赤道儀の端子に付属のワイヤレスユニットを取り付け、DC12Vの電源ケーブルを赤道儀本体の電源入力端子につなぎます。赤道儀の電源を入れると、ワイヤレスユニットから電波が発せられるので、それをスマホやタブレットと接続し、アプリで操作します。操作方法の詳細はワイヤレスユニットの使用方法にまとめていますので、そちらをご覧ください。

自動導入ができると、天体観望や天体撮影時の負担がかなり軽減されます。自動導入の操作や機能はAXD2赤道儀やSXD2赤道儀といった上位機種と全く同じですので、それらのユーザーならすぐに使いこなせるでしょう。

天体観望時の使い心地

SX2赤道儀に同社の屈折望遠鏡ビクセンED103S(SD103SIIの旧モデル)を載せて、木星を観望してみました。 ED103Sの本体重量は、約6.3キロです。SX2リミテッドに付属している2つのバランスウェイトと延長シャフトを使うと、バランスにまだ余裕があります。10キロ程度の機材でも十分バランスが取れそうです。

ED103Sは鏡筒が長く、決して小さな望遠鏡ではありませんが、自動導入時の赤道儀の動きはスムーズで、恒星でアライメントを行った後に木星を選ぶと、視野ほぼ中央に木星をとらえることができました。

200倍前後の倍率で木星を観望しましたが、気流の揺らぎは感じられるものの、振動などは感じられません。この夜は冬にしては気流が安定していたようで、木星の縞模様も綺麗に見えました。


また、SX2赤道儀に本体重量約1.5キロのビクセンFL55SSを搭載してみたところ、SX2リミテッドに付属の1キロのウェイトでバランスが釣り合いました(上画像)。リミテッド付属の2つのウェイトとシャフトを使えば、小型の望遠鏡からSX2赤道儀の搭載能力いっぱいの機材まで幅広く対応できるでしょう。

天体撮影時の使い心地

SX2リミテッド赤道儀に載せたED103Sに冷却CMOSカメラASI2600MCProを取り付け、天体撮影を行いました。ED103Sには、天体撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用し、口径40ミリのガイド鏡を赤道儀に同架して撮影しました。

上が、これらのセットで撮影した、オリオン座の馬頭星雲の写真です。8分露出した画像を10枚重ね合わせ、ステライメージ9でコントラストを高めています。

8分という比較的長めの露光時間でしたが、ガイドエラーは発生せず、どのコマも星はほぼ真円に写りました。下はオートガイド中のグラフですが、修正動作も問題なく実行されています。

馬頭星雲のディテール描写も良好で、さらに時間をかけてじっくり撮影すれば、迫力のある馬頭星雲の写真に仕上げることができそうです。

上位機種と比べてみて

SX2赤道儀の上位機種であるSXD2赤道儀は、ロゴが異なるだけで、外観はSX2赤道儀とほぼ同じですが、赤経赤緯の回転軸をアルミ軽合金から肉厚のスチール材に変更するなど、剛性を高めています。SX2赤道儀とSXD2赤道儀は、購入を比較検討する方も多いと思いますので、2つを使用した印象を比べてみました。

まず持ち運びの点ですが、SX2赤道儀の重量は7キロ、SXD2赤道儀は9.2キロです。2キロの違いですが、実際に持った時の印象はかなり違います。SX2赤道儀は、三脚から取り外す時も扱いやすく、持ち運びも苦になりませんが、SXD2赤道儀はずっしり感があり、三脚と取り外す時は負担感がありました。

観望や撮影では、SXD2赤道儀の方が重量がある分、安定感があります。しかし、ED103Sを使った撮影では、SX2赤道儀について、特にガイドエラーが大きく不安定といった印象は受けませんでした。架台の軽さが気になる場合は、三脚にストーンバックなどを付けて下方向の重量を足してやれば、安定感が増すと思います。

もちろん、耐荷重は異なるため、口径10センチを超えるSD115SS屈折望遠鏡R200SS反射望遠鏡を載せるなら、SXD2赤道儀が良いでしょう。逆に言えば、口径の小さな望遠鏡であれば、SX2赤道儀の方が軽くて扱いやすいので、気軽に観望や撮影を楽しめると思います。

SX2リミテッドは一つの有力な選択肢に

SX2赤道儀が発売開始されたときは、付属のハンドコントローラーでは自動導入もできず、あまり魅力を感じませんでしたが、現在は上位機種と同じワイヤレスユニットが標準装備され、有力な選択肢の一つになりました。

SX2リミテッドはそこに、3.7キロ+1.0キロのウェイトと延長シャフトを組み合わせ、SX2赤道儀の搭載性能をフルに発揮できるようにしました。

また、評価の高いSXP用架頭部分を採用した点もメリットです。昔に比べれば、SX2赤道儀の架頭の赤緯軸の動きもスムーズになりましたが、やはりベアリングを使用したSXP用架頭とは滑らかさが違います。アリミゾ金具が別途必要なりますが、SX2リミテッドの架頭の方が快適に使えるでしょう。

まとめ

SX2赤道儀の使用感は想像していたより良好で、口径10センチの天体望遠鏡を載せて天体観望や撮影を楽しむことができました。上位機種と同じモーターやワイヤレスユニットを採用している点が大きいのでしょう。 SX2リミテッドでは、赤緯軸周りの剛性も向上し、SXP赤道儀とほぼ同じような操作感が得られました。所有しているSXP赤道儀(11キロ)より4キロほど軽く、持ち運びしやすいので、今後はSX2リミテッドを遠征時のサブ機に使いたいと思ったほどです。 最近、ZWO社のスマート望遠鏡Seestarや電視観望をきっかけとして、天体写真に興味を持つ方が増えてきています。SX2リミテッドは、このような「これから天体撮影を始めてみたい」という方にとって、大きな選択肢の一つになると感じました。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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