ビクセン レデューサーV0.71xの インプレッション

Seestarで楽しむ南半球の星空 ビクセン レデューサーV0.71xの
インプレッション

発売以来、優れた結像性能で注目を集めているビクセンのVSD90SS(以下「VSD90SS」)用の焦点距離を短縮する補正レンズ「レデューサーV0.71×」が2024年8月に発売されました。
早速、この新しいレデューサーをフィールドに持ち出し、VSD90SSを使って天体撮影を行いましたので、その様子をご紹介します。また、今回、VSD100F3.8(以下「VSD100」)用のレデューサーV0.79×との比較についても考察しました。

使用機材
VSD90SS鏡筒 レデューサーV0.71x

レデューサーV0.71×の概要

レデューサーV0.71×は、4群4枚のレンズ構成で、うち2枚にEDレンズを採用しています。イメージサークルは約44mmと広く、35mmフルサイズの撮影にも対応しています。また、ベテランユーザーの厳しい要求に応えるため、スケアリング調整ネジも備えています。

VSD90SSに使用すると、焦点距離は495mmから351mmに短縮され、口径比もF5.5からF3.9と明るくなります。

なお、レデューサーV0.71×は、VSD70SSにも使用できますが、旧機種のVSD100には使用できません。実際にVSD100に装着を試みましたが、接眼部の内径に対してレデューサーの直径が大きく、最後までねじ込むことができず、取り付けが不可能でした。


VSD90SSへのレデューサー取り付け

レデューサーV0.71×をVSD90SSに取り付ける際は、まずM84延長筒を含む接眼部のアダプター類を全て取り外し、レデューサーV0.71×をドロチューブに直接ねじ込みます。その後、レデューサーV0.71×の後部に直焦ワイドアダプターDXをねじ込み、カメラを装着して撮影を行います

一方、レデューサーV0.79×を使用する場合は、鏡筒に標準で付属するM84延長筒の後部にレデューサーをねじ込みます。ドロチューブに直接レデューサーV0.79×を取り付けるとピントが合わないため、注意が必要です。


レデューサーV0.71×の星像

レデューサーV0.71×の結像性能を検証するため、VSD90SSを郊外に持ち出し天体撮影を行いました。撮影には、Astro6D(キヤノンEOS6D改造機)とASI2600MMProのカメラを使用し、ASIAIRアプリでオートガイド追尾撮影を行いました。
まず、Astro6Dで撮影した北アメリカ星雲の写真です。カラーバランスを整え、コントラストを強調した1枚画像です。北アメリカ星雲が画角一杯にバランスよく収まっているのがわかります。


次に、画像の中央部と周辺部をピクセル等倍で切り抜いたものを以下に示します。

ご覧いただくとわかる通り、中心部はもちろん、最周辺部でも星はほぼ点像に収まっており、35mmフルサイズ全体にわたって鋭い星像を結んでいます。フラット補正を行っていないにもかかわらず、周辺減光も目立ちません。
次に、APS-Cサイズセンサーを搭載したASI2600MMProで撮影したケフェウス座のIC1396の画像です。都市部でナローバンドフィルターを使って撮影しカラー化しました。


IC1396は非常に大きな星雲で、VSD90SSの直焦点では一部が画角からはみ出してしまいますが、
レデューサーV0.71×を使用することでバランスよく収まりました。

こちらも、中央部と周辺部のピクセル等倍画像を比較しています。35mmフルサイズの時と同様、中心部はもちろん、最周辺部でも星像がほぼ点像を保っていることが確認できます。


レデューサーV0.79×との比較

VSD100F3.8用に開発されたレデューサーV0.79×は、3群3枚のレンズ構成で、そのうち1枚にEDガラスが使用されています。

新旧レデューサーを外観で比較すると、レデューサーV0.71×の方が対物レンズ側のレンズ直径が大きく、レンズ枚数が多いため、より重く感じられます。
VSD90SSにレデューサーV0.79×を装着した場合、焦点距離は391㎜に短縮され、F値は4.3まで明るくなりますが、新型のレデューサーV0.71×のF3.9と比べると、やや暗くなります。

上の図はメーカーが発表しているスポットダイアグラムです。これを比較すると、APS-Cサイズの対角までは星像の大きさに大きな違いは見られませんが、35mmフルサイズの対角に近づくにつれて、星像が大きくなることがわかります。


レデューサーV0.79×の星像

レデューサーV0.79×の結像性能を検証するため、Astro6Dを使用してオートガイド追尾撮影を行いました。以下は、Astro6Dで撮影した北アメリカ星雲の写真です。カラーバランスを調整し、コントラストを強調した1枚画像です。レデューサーV0.71×で撮影した画像と比較すると、画角がやや狭くなっていることがわかります。


次に、画像の中央部と周辺部をピクセル等倍で切り抜いたものを以下に示します。

ご覧いただくとおり、中央部ではシャープで星像は丸くなっていますが、最周辺部になると星が若干放射状に流れて写っています。
さらに、APS-Cサイズに切り抜いた中央部と周辺部のピクセル等倍画像を以下に示します。

こちらをご覧いただくと、中央部も周辺部も星像は丸くシャープです。スポットダイアグラムが示す通り、APS-Cセンサーサイズまでであれば、旧型レデューサーでも十分にシャープな星像が得られることがわかります。


新旧レデューサーを使った感想

新旧両方のレデューサーを使用してみた感想としては、新型レデューサーはF値が明るくなったにもかかわらず、星像の品質がさらに向上し、35mmフルサイズでも十分に満足できる結果が得られました。
周辺減光については、新型レデューサーの方が軽減されているように感じましたが、APS-Cサイズのカメラでは大きな差は感じませんでした。ただ、どちらのレデューサーも35mmフルサイズの最四隅では急激に暗くなる傾向が見られました。
F値が多少暗くても問題がなく、APS-Cサイズのカメラを使う場合には、旧型レデューサーでも十分に撮影を楽しめると思います。


彗星撮影にもおすすめのレデューサー

下の画像は、VSD90SSにレデューサーV0.71×とフルサイズデジタル一眼レフカメラを組み合わせて撮影した紫金山・アトラス彗星です(※周囲をトリミングしています)。

紫金山・アトラス彗星を撮影したのは、日の出前のわずかな時間でした。彗星の撮影は時間が限られるため、F値が明るい光学系が非常に有利です。
レデューサーV0.71×は、星雲や星団の撮影に限らず、夜空を駆ける彗星の撮影にも強力な武器となるでしょう。


最後に

今回の撮影を通じて、新型レデューサーV0.71×の性能を確認することができました。総合的に見て、新型レデューサーV0.71×は、明るいF値と優れた星像性能を兼ね備え、特に35mmフルサイズカメラを使用するベテランの天文ファンにおすすめできるアイテムだと感じました。
旧型レデューサーもAPS-Cサイズのカメラには十分実用的ですが、周辺減光の軽減や広い画角でのシャープな星像、さらに明るいF値を求める方には、新型レデューサーが最適な選択です。
VSD90SSやVSD70SSにこの高性能な新型レデューサーを組み合わせることで、その魅力がさらに引き立ちます。ぜひ新しいレデューサーを手に入れて、VSD90SSやVSD70SSの高性能を存分に体感してみてはいかがでしょうか。



レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

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