ロスマンディー G11S 赤道儀のインプレッション

ロスマンディー G11S 赤道儀のインプレッション

ロスマンディー G11 赤道儀

ロスマンディーG11S赤道儀(以下: G11S赤道儀)は、長い間作り続けられているアメリカ製の赤道儀で、 世界中で安定した評価を得ています。 G11S赤道儀の最大搭載重量は約27キロを誇り、日本の天体写真ファンに人気の高いタカハシEM-200赤道儀を凌ぎます。 今回 G11S赤道儀にタカハシTOA130望遠鏡を搭載して天体撮影を行う機会を得ましたので、 G11S赤道儀の概略や追尾精度を交えながら、機材の使用感をまとめました。


ロスマンディー G11S 赤道儀について

G11赤道儀には、採用されているモータードライブの種類により、いくつかのタイプが用意されていますが、 今回使用したのは、赤緯と赤経モーターが付属した「G11S 両軸モーターコントローラー付モデル」です。 三脚は、ロスマンディー製の丸パイプ二段伸縮脚を使用しました。

ロスマンディー G11 赤道儀

G11S赤道儀は、ジュラルミンと呼ばれるアルミニウム合金で製造されています。 黒色アルマイト加工が施されたボディは、白っぽい色合いの日本の赤道儀とは一味違い、 引き締まった印象を受けます。 CNC旋盤を使って切削加工された仕上げは美しく、本体に触れると、各部の組み立て精度の高さを感じました。

G11S赤道儀本体でまず目を引くのは、ウォームホイルが入った大きなハウジング部分です。 ウォームホイルの直径は143cm、歯数は360枚もあり、タカハシEM-200(ウォームホイル直径92mm、歯数180枚)と比較しても、 かなり大きなギアが用いられています。 ウォームホイルは、精度や強度に影響を与える重要なパーツで、一般的に大きい方が追尾精度が高いと考えられています。

ロスマンディー G11 赤道儀

G11S赤道儀のヘッドには、大型のアリミゾ金具が取り付けられています。 このアリミゾは、ロスマンディー規格と呼ばれる75mm幅のアリガタプレートだけでなく、 ビクセン規格のアリガタプレートにも対応しています。

G11S赤道儀の赤経と赤緯のクランプは、それぞれの軸の根元に装備されています。 一般的な赤道儀のクランプは、締めるか緩めるしかできませんが、 G11S赤道儀にはクラッチ機構が設けられており、ユーザーが載せる機材の重さに合わせて、 クランプのテンションを調整することができます。

このクラッチ機構があるおかげで、 G11S赤道儀はフリーストップマウントとして使うことも可能です。 具体的には、モーターの電源を入れたまま、自由に天体望遠鏡を動かして目標の天体を導入することができ、 手を離したところで望遠鏡が固定され、恒星時追尾で目標天体を追いかけてくれます。


ロスマンディー G11S 赤道儀の追尾精度

天体写真撮影は、オートガイド撮影が主流となりましたが、赤道儀の追尾精度は天体写真ファンにとって気になる点です。 そこで G11S赤道儀のピリオディックモーションを、ウォームギア2周期分(約8分間)撮影し、実測してみました。

撮影した結果は、下の画像の通り、±10秒程度でした。 一般的にこのクラスの赤道儀では±10秒前後の場合が多いので、 標準的な基準をクリアしていると言えます。 ウォームホイルの他の部分でも実測してみましたが、いずれもほぼ同じ結果が得られました。

ロスマンディー G11 赤道儀

また、 G11S赤道儀には、ピリオディックモーションを学習させて電気的に動きを補正するPEC機能があります。 PEC機能を使うには、初めにウォームギア1周分のピリオディックモーションをコントローラーに記憶させる必要がありますが、 上手く使えばピリオディックモーションの改善が期待できます。 実際にどの程度改善されるのか、PEC機能をオンにして、ピリオディックモーションを測定してみました。

その結果は、下の画像の通り、ピリオディックモーションは、±4秒程度に改善されました。 PEC機能を使えば、焦点距離の短い光学系なら、ノータッチガイドでも撮影を楽むことができそうです。 なお、下の画像は星の軌跡が途切れがちになっていますが、これは撮影中に薄雲が通過したためです。

ロスマンディー G11 赤道儀

※ピリオディックモーションとは: 赤道儀はギアで駆動しているため、ギアの機械的誤差により、赤道儀が動く間にある程度の進み遅れが生じます。 これがピリオディックモーションという現象で、この進み遅れが小さいほど高精度と考えられています。


ロスマンディー G11S 赤道儀を使って天体撮影

G11S赤道儀を郊外に持ち出して、実際に星空を撮影してみました。 使用した天体望遠鏡は、天体写真ファンに人気の高いタカハシTOA-130望遠鏡です。 タカハシTOA-130の本体重量は約12キロですが、プレートや鏡筒バンド、ガイド鏡等を合わせると、 16キロ程度になります。 これに、重さ約1.4キロのフルサイズ冷却デジタルカメラ、Astro6Dを取り付けて撮影を行いました。

下は、赤道儀にTOA130望遠鏡と撮影機材一式を搭載した状態です。 写真では、TOA130望遠鏡が大きく、トップヘビーに感じられますが、赤道儀の搭載重量に余裕があるため、 安心してTOA130を載せることができました。 なお、バランスウェイトは、標準付属の約10キロのウェイトだけでは足りなかったため、 3キロウェイトをシャフトの端に追加して、極軸周りのバランスを取っています。

ロスマンディー G11 赤道儀

撮影を開始する前に、電子極軸望遠鏡Pole Masterを使って極軸を正確に合わせました。 次に、電源を入れて、ハーフクランプ状態にし、ファンダーを覗きながら目標天体を導入しました。 G11S赤道儀のフリーストップ機能は、天体導入に大変便利で、スムーズに目的の天体を導入することができました。

オートガイダーには、M-GENスーパーガイダーを用いましたが、途中、 雲が通過してオートガイダーが星を見失った時以外は、ガイドエラー量も少なく、 順調にオートガイド撮影を行うことができました。 下は、ガイド中のM-GENの液晶モニターに表示されたガイドグラフです。 ガイドは安定しており、 G11S赤道儀のオートガイドとの相性の良さを感じました。

ロスマンディー G11 赤道儀

この夜は、はくちょう座の北アメリカ星雲から撮影を開始し、 ケフェウス座のIC1396星雲→アンドロメダ大銀河→スバルの4対象を、 G11S赤道儀を使って撮影しました。

下の画像は、この夜に撮影したIC1396の画像です。 ISO1600、360秒露光で撮影した8枚の画像をコンポジットして、一枚の写真に仕上げています。 右側の部分拡大画像をご覧いただくと、 星が真円を保って写っていることがわかります。

ロスマンディー G11 赤道儀

観望用にも使いやすいフリーストップ機能

今回は、天体撮影メインで G11S赤道儀のテストを行いましたが、 撮影の前に、TOA130望遠鏡に広角アイピースを取り付け、 亜鈴星雲や散開星団をはじめとした、いくつかの有名天体を観望しました。

自動導入装置が付いた赤道儀と異なり、 G11S赤道儀の場合は、 ユーザー自らが望遠鏡を動かして導入しなければなりませんが、 手を離したところで天体望遠鏡が固定され、恒星時追尾が行われるフリーストップ機能は大変便利で、 天体望遠鏡を気ままに振り回す楽しさを再発見することができました。

G11S赤道儀は、天体撮影用だけでなく、天体望遠鏡を赤道儀に載せ、 自由に天体観望を楽しみたいというユーザーにも使いやすい機材だと感じました。


ロスマンディー G11S赤道儀の印象

G11S赤道儀を使用した印象や、上記で記載できなかった内容を箇条書きで列挙しました。

・外見からは細身の印象を受けるG11赤道儀だが、基本的な強度は高く、 今回のテストのように、大きくて重いタカハシTOA130でもしっかりと支えることができた。

・丸パイプ二段伸縮脚は、石突は装備されていないが、強度は高く、安定感のある三脚だ。 重いが、折りたたむとコンパクトになり、レバーのワンタッチで脚を開いて固定できるので、 ピラー脚ほど設置に手間が取られない点は助かる。

G11S赤道儀にはオプションで極軸望遠鏡が用意されているが、極軸望遠鏡自体は覗きやすいものの、 スケールパターン上の北極星の導入位置が広いため、 本格的な天体撮影目的であれば、Pole Masterを使用した方がよいと感じた。

・極軸設定時に使用する、水平・垂直微動の動きはスムーズだ。 ただ、水平微動にはノブつきの固定クランプが用意されているが、 垂直微動のクランプを締めるには、六角レンチが必要だ。 なお、赤道儀本体の座面と赤緯体に、水準器が内蔵されている。

ロスマンディー G11 赤道儀

・モーターコントローラーユニット(上写真)は、赤道儀の脚部に固定して使用するが、 表示が簡潔でわかりやすく、暗闇でもモーター速度などの設定を確認しやすい。 電源入力やオートガイド用の端子も、このユニットに装備されている。

・赤緯・赤経モーターが赤道儀の外側に出っ張っているため、撮影中に望遠鏡と干渉しないか心配したが、 赤道儀の東側に取り付けられているため、東から昇ってくる天体を撮影した場合、子午線を超えても撮影を続けることができた。 北半球で使用する分には影響がないと思われる。

・赤経、赤緯の回転軸には、刻印された大型の目盛環が装備されている。 バーニヤも刻印されているので、精度よく座標を読み取ることができる。 最近の赤道儀には目盛環が省かれることが多いが、 ロングセラーの赤道儀だけあって、基本に忠実な製造者の姿勢を感じられる。

G11S赤道儀の本体重量は18キロと重いが、細身で所々に手を掛けるところがあるので、 案外、持ちやすかった。 また、三脚への取り付けも、3箇所のネジと溝の部分を合わせてはめ込み、ネジ止めするだけなので、 簡単かつ確実に取り付けることができた。


まとめ

今回、 G11S赤道儀を天体撮影に使用してみて、ロングセラーの人気に裏付けられた使い勝手の良さと 信頼性を確認することができました。 また、精度や操作性だけでなく、黒色アルマイト加工されたボディには、 日本製の赤道儀にはない格好良さもあり、持つ喜びを感じさせてくれる機材だと感じました。

今回、使用した G11S赤道儀には自動導入機能が付けられていませんが、 クオリティの高い作品を生み出すには、何枚も同じ対象を撮り続ける必要があり、 一晩で1~2対象ということも珍しくありません。 そのような一対象をじっくり撮影するという用途に、 G11S赤道儀は適しているのではないでしょうか。

今回のテストに使用したタカハシTOA-130ε-180EDは、大きく重いため、 「EM-200赤道儀では少々不安だが、かと言って、EM-400赤道儀では大きすぎる」というユーザーの声をお聞きします。 G11S赤道儀はちょうどその要望に合う大きさ、強度を持った赤道儀だと感じました。 EM-200より、もう少し搭載重量に余裕がある赤道儀が欲しいという方に、 お勧めできる機材の一つだと思います。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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